13話 説得
俺の質問に答えにくいのか、これまでペラペラと喋っていた口が止まった。
目を逸らし、どこか気まずそうにしている。
「あの、すみません……質問の意味がわからなくて」
「というと?」
「相手はダンジョンマスターですよ?躊躇する理由ありますか?」
「元は人間だろ?見た目も変わらず人間だ」
「人とそっくりな見た目をしているだけです。本質は変わりません。自らダンジョンマスターに、人類の敵になる事を選んだ人たちです。」
目の前の女は本気でダンジョンマスターを人と認識してないようだった。
異常だなと思うとともに、納得する面もある。
俺のダンジョンで人が初めて死んだ時、俺はなんとも思わなかった。そして、なにも思えなかったことに驚いた。俺ってこんなに情緒なかったっけ、と。
よくよく考えてみれば、これまでダンジョンで犠牲者が何人も出たと報道でやっていても、気にすることはなかった。
ダンジョンマスターになった事で変わってしまったのだろう。俺も、この女も。
冷静に考えてみれば、まともな感性を持ったままダンジョンの運営なんて出来るわけないしな。
話は聞くのはもう良いや。
最後まで聞き終わってないけど続きは大体わかる。うっかりダンジョンマスターになってしまったから人類の味方としてダンジョンをぶっ潰す。その一環として俺のところにも来た、で終わりだ。
間に話が入るとしたら、政府がダンジョンの入場規制してる時は待ってただとか、今年の元日に与えられた周辺地域を侵略する権利は使わなかったとかそんなところだろう。
さて、この女の処遇はどうしようか。
殺すのは簡単だ。もう一度コカトリスの目を見せて、石化したら粉々に割れば良い。そんなことをしなくたって、拘束してる今の状態なら風魔法であっさり殺せる。
まぁでも、もったいないよなぁ。
俺の都合の良いように説得、できるだろうか。
「俺は別になりたくてなったわけじゃないよ、ダンジョンマスターに」
「そんなはずあるわけが……」
まぁ嘘だけど。
「貴女もなりたくてなったわけじゃないのに?」
「私の場合は二日酔いで……」
「俺は授業中うとうとしてたらさ、声が聞こえてきたんだよ。でも声が聞こえるなんて普通は夢だと思うじゃん?だから<はい>を押した。夢の出来事で終わると思ってたから。でもそうじゃなった」
これも嘘。
「さっきびっくりしたんだ。俺も人類の味方をしようって決めてこのダンジョンを作ったからさ。」
これは本当。
嘘をつく時のコツは話せる真実と信じさせたい嘘を良い感じに混ぜ合わせることだ。それだけで人はなかなか疑えなくなる。
「チュートリアルだなんておかしいと思わなかった?」
「……少しだけ」
「人類が探索者になるハードルをできるだけ下げたくて構成したんだ、あれ。俺の事情も話したし、俺もダンジョンマスターになりたくてなったわけじゃないって信じてくれるかな」
「そうですね。納得はできました。だからなんなんですか」
納得させられたならここまでは順調だ。
「ここにいるダンジョンマスター2人は人類の味方をしたいと言っている。逆に人類もダンジョンマスターと仲良くしたい勢力がいる」
「ありえません。ダンジョンは人類の敵です」
「人類の味方でいたいなら、もっと人類の情勢を調べなきゃ。ダンジョンの完全攻略を反対している団体があるの知らないの?」
「知っていますが、あれはダンジョンからでる資源が目当てで、ダンジョンマスターとは別ですよね」
「ダンジョンマスターがいるからダンジョンから資源がでてくるんだけどな。でも、人類の間では、ダンジョンマスターの存在は周知されていない。だからまだちゃんとした味方がいないだけだと思ってる」
「あの、人類はダンジョンの消滅を望んでいないって言いたいんですか。何を言われようと私の目的は変わりませんよ」
本当にそうだろうか。
この女の動機は"大切な人達と敵対したくない"という思いから始まっている。
「俺、ずっと気になってたんだけど、そもそもどうしてダンジョンマスターと人類が敵同士たって決めつけてるわけ」
「だって、声が」
「確かに声は言った。俺たち側には"1ヶ月後、人類の侵攻が始まります"って言って、人類側には"ダンジョンの侵攻から地球を守りましょう"ってな。それで去年人類が侵攻しなかったダンジョンには今年、周辺地域を侵攻する権利を与えます、だろ?どう考えてもそいつがダンジョンマスターと人類を争わせたいだけじゃん。よく知りもしない声の言うこと聞いてどうするんだよ」
説得するために適当に言った。
個人的にはダンジョンの存在とスキルのルールが人類に都合良いから、声の主こそ人類の味方をしていると思ってる。人類はいつでもダンジョンに侵攻できるのに、ダンジョンは権利がないと外に侵攻できないところとか特に。
ダンジョンマスターは人類の生活を発展させるための犠牲なんじゃないだろうか。
「そう言われたらそうかもしれないけど、実際に敵対関係なっちゃってるじゃないですか。ダンジョンは今も攻略されているし、ダンジョンで人は死んでる。だから私はダンジョンで人を殺す方じゃなくて、ダンジョンを攻略する方を選んだ。それだけです」
「ダンジョン攻略を続けたいなら続ければいい。でも俺は、貴女が世間にダンジョンマスターだと公表して、人類の味方だと堂々と宣言してもらいたいと思ってる。そうすればいつか、敵対関係を解消できるんじゃないかと思うから」
「なんで私なんですか」
「俺は今でも人類の味方と思ってる。でも残念ながら俺のダンジョンでも人は死んじゃってるからさ。大々的に味方ですって言っても誰も信じてくれないよ」
「そう、ですか」
「俺の聞きたいことは聞けたし、言いたいことは言えた。世間に公表してもしなくてもいいし、ダンジョン攻略は別に続けても良い。俺のところは最後にしてくれたら嬉しいけど」
「わかりました」
「お話に付き合ってくれてありがとう。じゃ、コカトリス、よろしく」
名前を呼ぶと、ずっと後ろを向いていたコカトリスがこっちを向いた。女と目と目が合う。
そしてまた女は石になった。
この後は解放するけど、流石にこの階で拘束を解くわけにはいかないからな。1階層に運んでから薬をぶっかけてまた治す予定だ。
女の石像は石にしては圧倒的に軽い。たぶん表面しか固まってないからだと思う。それでも階段を運ぶのにはキツイからゴブリンにでも運ぶの手伝ってもらおうかな。
2体召喚して、俺とゴブリン2体に隠遁者スキルを使う。
女は今石だし改竄でいけるかなって思ったけど無理だった。仕方がないのでこっちにも隠遁者を使った。
俺が前を歩いて、後ろからついてくるようゴブリンに指示を出す。
1階層まで行き、周りに人がいないのを確認してから、女に掛けていた隠遁者の効果を切った。
その状態で薬を投げつけ、効果が出るより早く急いでその場を離れる。
念の為カメラで様子を確認すると、女はそのままダンジョンを出ていったようだ。
出ていったのはダンジョンマスターだからリザルトはでない。
俺とゴブリン達はというと、6階層まで来ていた。探索者がいないところでゴブリン達の隠遁者の効果を切って、6階層のゴブリンと仲良くするよう伝える。
これでやる事は全部終わった。帰ろう。
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