12話 対面

翌日、親には友達と遊びに行くと言って家を出た。

今日は卒業祝いとして良い所に外食するから早めに帰宅するよう言われたので、やることやったら帰る予定だ。


ダンジョンに行く途中、予定通り服屋でミラー加工されたサングラスを買って、コンビニではマスクを買って町田駅を降りる。


そのまま15分ほど歩いたら到着だ。


外から見る自分のダンジョンは想像より何倍もしょぼかった。

約3畳のスペースは流石に狭過ぎたか。



「最初の部屋って拡張できる?」


『回答:人類の侵攻を受けていない状態の時のみ可能です。枠部分を長押ししてご変更ください』



よし、帰ったらやろう。深夜帯はいつも人いないし。


左右1mずつと、奥行きは3m伸ばせるかな。


外観も壁はただの石レンガで入り口もなんの装飾もないただの四角だから地味だ。……入り口をもう少し豪華にしよう。


実際に中に入ってみる。



「せっま」



とか言ってる場合じゃないか。



「"隠遁者"」



これで俺の姿は誰にも見えない筈。



「ステータス……で、種族名を人類に"改竄"。スキルの隠遁者と改竄を見えないように"改竄"。ポイントと経験値も人類っぽく"改竄"」



本当はレベルも低く見えるよう改竄したかったけど、それをすると隠遁者を発動し続ける魔力が持たないし、ここは自分のダンジョンなので最悪ポイント使ってなんとかできるから、今回は我慢する。


まぁ、スキルを使う必要があるのかわからないほど人の気配がないんだけど。


今の時間が11時20分と、予約の時間が近くないから人が居ないんだろう。


いや、ダンジョンに予約ってなんなんだろうって俺も思ってるよ。


人類が大人しく待てないからさぁ。探索者同士の喧嘩が多発したらしいな。それで予約システムができたらしいけど、アホすぎるだろ。


冷静になって考えてほしい。


確かに鍵がないと5階層の扉は開かない。

でも帰り道には鍵なんて必要ないのだ。


ダンジョンに一般人が入れるようになってすぐの、訪れる人数が少ない頃ならともかく、探索者が増えダンジョンに訪れる人数が増えた今なら、6階層から戻ってきた人と入れ違いで先に進めばいい。


他の探索者がいつ戻ってくるかわからないけど、喧嘩するんじゃなくて話し合えばそこらへんもなんとかなっただろう。


なのに予約サイトって……アホを通り越して思考放棄してるだろ、もはや。


まぁ、1時間間隔で人が訪れるのは、ダンジョンに入る人数が絞られるってことだから、俺としては助かる。

こうして入り口に人が居ない時間帯ができるのも隠遁者スキルを使いたい俺にとってはメリットだ。


だから今後も指摘することはない。

人類は予約システムなんて無駄っていつ気づくかな。


なんて事を考えながら、俺は先に進んだ。


自分のダンジョンのモンスターは襲ってこないから全部スルーだ。


人類の間では問題になってる5階層の扉はサクッとポイント使って鍵を手元に出した。

残念ながら罠はダンジョンマスターでもスルーできないからな。


それと同じ理由でオークも倒さないと先に行けないから風魔法で倒した。

初級魔法の威力は低く、無抵抗のオークの首を落とすだけでも3回攻撃を入れる必要があった。

中級の方取ればよかったかな。


6階層と7階層に行けば、探索者がちらほらといた。

戦闘してるところを横切ってみたけど、隠遁者スキルのおかげで本当に見えてないみたいだ。


8階層の罠が大量にあるゾーンは例の女に破壊され尽くしたから、普通に歩いて進めた。松明はポイント使って出したけど。その時隠遁者の効果は切っておいた。ここまで人来ないし。


そして9階層。階段を降りてすぐの場所に女の石像があった。


コカトリスは部屋の真ん中でくつろいでいる。今回の功労者である彼にはさっきオークを倒した時にでた魔核をあげた。それを美味しそうに食べている。


鳥好きになりそう。



「コカトリス、ちょっと後ろ向いてて」



指示通り後ろを向いた。かわいい。


その後ショップで魔力を回復してくれる薬と石化の解除ができる薬を購入した。


改竄と隠遁者スキルで消費した魔力を全回復させて、買ってきたマスクとサングラスをかけ、自分の顔を隠す。


拘束スキルで予め女を拘束した状態で、薬を使って女の石化を解いた。



「えっ、は?」


「こんにちはダンジョンマスターさん」


「……まさか」


「おそらく想像通りだよ」


「どうして私がダンジョンマスターってわかったんですか」



普通にAIが教えてくれたけど、まさか警告設定を知らないのか?ダンジョンマスターの画面を使いこなせてないとか?


なんにせよ、女からの質問には答える気はない。



「なんでこのダンジョンを攻略しにきたか答えてくれない?」



……しばらく待ってみたものの、回答はない。あっちも質問に答える気はないみたいだ。



「喋らないなら君に用はないから、また石になってもらうけど」


「こ、答えます!……ダンジョンマスターになった日、私二日酔いだったんですよ」



俺はここに来た理由を聞いたんだけどな。

最後まで話を聞き続けたら知りたいことの回答を聞けるかな。



「それで?」


「それで、頭痛くて、なんか聞こえたなと思ったけど何言ってるかわかんなくて、特に何も考えず目の前に出てきた<はい>ってボタンを押しちゃったんですよ」


「で?」


「その後たぶんチュートリアルの説明が入ってたんですけど、私なんも覚えてなくて。その時やらなかったからたぶん<いいえ>を選んだんですね」



チュートリアルの前にAIのタイプを選ぶ選択肢がある筈だけど、ここも飛ばしたんだろうな。話に一切出てこないあたり記憶が曖昧なのはガチっぽい。



「私、普段からメガネだから、視界にメガネのフレームがずっとあって、チュートリアルを再開させる三角︎ボタンの存在に気づけなくて。それで、12月の最終週かな。よくわかんない声が聞こえて。推奨、チュートリアルの始動、みたいな?それすら私弟のゲームの音だと思って無視したんですよ。そしたら今度はダンジョンの設定を行わない場合、コアとの連携が上手く行かないから最悪死ぬかもって忠告する声が聞こえて。あまりにもうるさいから弟の部屋に行ったら、弟、いなかったんです。そこでようやく自分になにか変なことが起きてるって気づいたんですよ」



……話長くない?


これ本当に最後まで聞く意味あるかな?

マジで境遇とか興味ないんだけど。



「あの、聞いてます?」


「全部聞いてるからさっさと結末まで喋ってくれ」


「わかりました。謎の声が自分に話しかけてるって気づいたから、恐る恐る質問したんですよね。それで声が私がダンジョンマスターになったこととか、チュートリアルの始め方とか教えてくれました。ダンジョンマスターが人類の敵だってことも」


「それで?」


「私ダンジョンマスターになんてなりたくなかった。大好きなみんなと敵同士なんて嫌だった。だから決めたんです。立場なんて関係ない。私は人類の味方をするって」



奇遇だな。俺も人類の味方をするダンジョンにしようって思ってる。


動機は180度くらい違うけど。



「それで世界からダンジョンを無くすにはどうしたら良いか声に聞いたらコアを壊すしかないって言われたんです。そこから声にアドバイスを貰いながら、必要最低限のポイントで自分のダンジョンを作りました。死んだら他のダンジョンのコアが壊せなくなりますからね」


「へぇ。どんなダンジョン作ったんだ?」


「場所は海の中で、敵も罠も配置していない、1階層しかないダンジョンです。東京湾の沖合にあると思いますが、詳しい場所は私も把握していません」



海の中か。拠点にかかるポイントが1番低いから妥当ではある。



「それで、その後は?」


「私、愛知県に住んでるんですけど、たまたま家の近くにダンジョンが出現したから、迷わず入りました。そこでショップを使ってこの刀を買って、刀スキルを取りました。成長していないダンジョンを攻略するのにこの2つさえあれば余裕でした。あっさり最深部まで行けて、コアを壊して、3万ポイントほど貰いました」



刀……見た目的に霧刃ってやつか?霧のように軽やかで、緻密な切れ味がある妖刀と記載がある。

俺の画面だと6万5000ポイントで買えるやつだな。


刀スキルは最近調べまくったからショップを見なくてもわかる。5万ポイントだ。


購入に必要なポイントが全く同じだとすると、この女は俺と同じデルタタイプのAIを選んだことになる。だからなんだって話ではあるが。


それよりも、気になることがいくつかある。



「ダンジョンに経験値が入るまでスキルが購入できないと思うんだけど、どうやってショップを解放させた?」


「愛知のダンジョンに入った時に普通に解放されましたよ。確か……邂逅って称号を獲得した後に"エラー、称号を付与させる先がありません"って言われて、そのあと情報を修正しますってなって、レベルが1になって、スキルショップが解放されました」



……いや、どこが普通なんだよそれ。


ダンジョンマスターとしてのステータスを解放する前に称号獲得するとそうなるんだ。なんかバグ技っぽいな。エラーって言われてるし。



「じゃあその刀はどうやって手元に?」



自分のダンジョンで出現させても海の中の、しかも場所すら知らない所になんて取りに行けない筈なのに。



「それも普通に出せましたけど。ショップの刀の画像を手元にポイってスライドさせたら支払い画面になるから、ポイント支払ったら手に入れられました」


「へぇ、そうなんだ」



そんな便利な機能あるならもっと早くに知りたかったな。別に手元に欲しい物があったわけじゃないけどさ。


まだまだ俺の知らない機能が隠れてそうだな。



「じゃあさ、コアを壊す時、躊躇しなかった?コアを壊せばダンジョンマスターも死ぬってことくらい知ってるだろ」


「それは……」

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