6話 1月1日午前9時、若島蒼斗の場合
AIからグリニッジ標準時が1月1日になった瞬間。つまり日本では1月1日の9時にダンジョンが公開されると聞いていた。
だから俺は見たい番組があるからと言う理由で年越ししてすぐに寝て、朝早くに起きた。
この後何が起こるかを知っているのはダンジョンマスターだけ。
そわそわとする気持ちを押さえて、母親が作ったお雑煮を食べながら対して面白くもない正月特番を見る。
そしてついに時刻は9時を迎えた。
「なんだ?」
普段はあまり喋らない父親が呟く。
「貴方にも聞こえた?」
それに母親が答えた。
この時、俺にはなにも聞こえなかった。
ただ、おそらくあの時ダンジョンマスターに選ばれた者にしか声が聞こえなかったように、"人類"しか聞こえない何かが流れたのだと察した。
「なんだろうね、今の」
俺は会話に乗った。ここで何も聞こえなかったと思われるのはまずい。
並行してすぐにSNSで声と検索する。
ダンジョンマスターになった時とは違ってかなりの量の投稿が出てきた。
情報を断片的に拾うと、人類の皆様にお知らせですと言う声が流れ出したらしい。ダンジョン、ステータスポイントの配布などの言葉も見受けられる。
そうこうしているうちに友人たちとのグルチャでは今の聞こえた?とメッセージが流れてる。やばくね?とだけ返信しておいた。
「ネット見る限り色んな人に聞こえてるっぽい」
「なんなのかしらねぇ」
「どうせ誰かのイタズラだろう」
どうやら頭に声が直接届いたというよりは、外で誰かが音声を流したと判断したらしい。まぁ、普通はそうなるか。
けれども、正月特番が緊急ニュースに切り替わった事で、両親はようやくイタズラなんかじゃないと認識したようだ。
今日、というかしばらくは外出しないよう言われてしまった。
ダンジョン側なんだけどな、俺。言わないけど。
ニュースの内容はというと、主に渋谷駅に出現した建造物について取り扱っていた。
場所が場所だし、出現した建造物が大きく、それによって線路が塞がれて電車が止まったからな。
渋谷駅のは間違いなくダンジョンだろう。
世界の乗客者数ランキング7位の東京駅でさえ拠点にするには6万ポイント必要だったんだ。それがランキング2位の渋谷駅に拠点を置くなんてどれくらいポイントを使ったんだろう。
馬鹿なのか?デルタタイプのAIにしてポイント多くもらったから強気に行ったのか?建造物……最初の部屋が無駄に大きいことから、AIに質問しないままチュートリアルを行ったとみた。
拠点にポイントを使いすぎているだろうから、あまり強くないダンジョンになってそう。
俺の方のダンジョンはというと、ニュースで町田が読み上げられてないので、おそらくまだ発見されていない状態だ。
そもそも人が寄りつかない廃れた小さな公園が拠点だしな。気長に待とう。
惰性でそのままニュースを見続けていると、どうやら現場に動きがあったらしい。
テレビのリポーターが今現場に自衛隊が到着しました、とか言っている。自衛隊かぁ……
このまま突入するのだろうけれど、高確率で失敗するだろう。
だって、ダンジョン内で人類が発明した機械系のアイテムは使えないから。銃とかライフルも機械だし、無線も機械に含まれる。
渋谷駅のダンジョンが最弱のスライムを配置していたならともかく、ポイントの関係上せいぜい1階層くらいしか作れてないだろう。
それなら最低でもゴブリンくらいは配置しているはず。
となるといくら鍛えられてる自衛隊でも初見で武器なしの状態でそこそこのモンスターと戦うってのは流石にキツいと思うんだよな。
よくない結果になるとわかっててこのままニュースを見続ける趣味もない。俺は両親に声をかけて部屋に戻った。
ダラダラと漫画を読んでいると、突然声が聞こえた。いつものAIの声だ。
『人類からの侵攻を確認しました。
経験値を獲得。ダンジョンのレベルが1となりました。
個体名:若島蒼斗を正式にダンジョンマスターと任命いたします。それによりダンジョンマスターとしてのステータスが解放されました。
称号:邂逅を獲得。獲得特典として1万のダンジョンポイントが付与されます。
称号:初級ダンジョンを獲得。獲得特典として1万のダンジョンポイントが付与されます。
称号:環境変化を獲得。獲得特典として5000のダンジョンポイントが付与されます。』
多い多い。情報が多い。
いったん情報を整理したいところだけど、それよりも侵入者の方が気になる。
「ダンジョンの様子って見れる?」
『回答:カメラマークから確認できます』
あぁ、本当だ。気づいたら左上の目のマークの隣にカメラマークが増えてる。
ついでに右上には人形のマーク、メダルのマーク、メモマーク、歯車マークが増えていた。今のレベルアップで解放されたんだろうか。
カメラマークを押してみる。視界の真ん中に大きく最初の部屋の様子が映し出された。
ここら辺の操作方法はプレビューの時と同じっぽい。
今のままだとリアルの視界が終わってるのでダンジョンの様子は視界の4分の1ほどに小さくし、タッチで進むゲームのように画面をタップして1階層に視点を動かした。
するとそこにはダウンジャケットを来た大学生くらいの男がいた。
ビーチバレーボールほどの大きさのスライムは部屋の真ん中あたりの地面をゆっくりと這いずっている。
男はゆっくりスライムに近づいて、核を思いっきり踏んだ。
それによりスライムは倒され、魔核と鍵を落として肉体は消滅する。
スライムは飛びつき攻撃をするはずだから、攻撃されずに倒せた男は運が良かったな。
けれども男はドロップしたアイテムは拾わずにそのまま走ってダンジョンを出て行ってしまった。
スライムを倒しておきながら怖くなったんだろうか。
『リザルト:スライム1体が撃破されました。
272のダンジョンポイントを獲得しました。
271の経験値を獲得しました』
AIが今の成果を教えてくれた。
スライムの配置に100、ドロップアイテムの鍵に100を使っていたので、今のでダンジョンポイント200を消費したことになる。
ポイントと経験値はダンジョンに人類が居た秒数だろうか。レベル1になった時に1だけ経験値を使ったからズレてるとみた。
総合してギリギリプラスの収支だ。
うーん、厳しい。
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