第四章 最後の軍神
我々は、軍神です
港自体はまだ封鎖されていなかったが、ここで戦闘があったことは確実だ。
港町は閑散としていた。
イサヴェルから
(だが、イサヴェルの軍隊の姿が見えないのは、どういうことだ……?)
まさか、もう本陣は
イヴァンはかぶりを振る。
いや、それはないはずだ。本土から海を越えると、今度は山越えがはじまる。夏ならばともかく、いまの季節は冬だ。イヴァンの目にも
とにかく情報がほしいところだが、宿泊施設も酒場などといった店も閉まっているため、それもむずかしい。
この港町を管理する町長がいたはずで、しかしいきなり行って取り合ってもらえるかどうか。
「イヴァン!」
途方に暮れながら、とぼとぼ歩いていたイヴァンを呼び止める声があった。
「やはり……イヴァン副隊長だ!」
「帰っていらしたのですね!」
少年が二人、イヴァンのもとへと駆け寄ってくる。まだ顔立ちは幼いものの、イヴァンとおなじく、纏っているのは
「こちらへ……」
「ここは、アウリスが管轄する施設なんです」
「アウリスが……?」
イヴァンは目をしばたく。ややあって、見当がついた。アウリスの父親は
奥の部屋へと案内されて、イヴァンはここでも驚いた。
「アウリス、お前……」
「やっと帰ってきたのですね。困った副隊長殿だ」
いつもの
「お前、その傷は」
「こんなもの、どうってことありませんよ」
それは強がりなのかもしれない。
執務中だったようで、アウリスは机に向かっていた。しかし、ひさしぶりの再会だというのに、アウリスは席を立たなかったし、イヴァンにカウチを勧めることもなかった。
「お前たちがここで、イサヴェルを食い止めてくれたんだな」
「その言葉は正しくはありませんね。私たちは、奴らを抑えきれなかった」
「では、やつらは
「まさか……!」
アウリスが机をバンとたたく。
「たどり着かせるはずがないでしょう? 我々は、
イヴァンは目を
ここの守りはせいぜい百といったところだろう。それ以上の数を、
「ともかく、お前が無事でよかったよ」
「それはこちらの台詞ですね。てっきりケルムトで野垂れ死んだのだとばかり。あなたが帰ってこなければ、私が副隊長でしたのに……残念です」
イヴァンは失笑する。無論、アウリスも作り笑いだった。
(相変わらず、冗談が下手だな)
減らず口をたたける余裕があるところを見て、ようやくイヴァンは肩の力を抜いた。と、同時にどうしようもない罪悪感に襲われた。
(アウリスがこの館の主人だから、この町を任されたのかもしれないが、本来ならこれは俺の役目だった……)
「それで? ケルムトはこちらに応じてくれると?」
「ああ。同盟はまもなく成立する。ケルムトの
「なるほど。あなたが使者に選ばれた意味が、いまわかりましたよ。あなたは蛇姫のお気に入りのようだ」
「まあ……、いろいろと世話にはなったが」
アウリスは怪訝そうな表情をする。その視線の意味をわからず、イヴァンは首を傾げた。敵の攻撃を避けきれなかっただけではなく、毒をもらって
「その様子では、レムは連れ戻せませんでしたか」
「あいつは……」
口籠もったイヴァンにアウリスは嘆息する。
「あれは助手とはいえ、軍医ですからね。戦力にならなくとも、後衛では役に立つ」
「ずいぶん勝手な言い草だな。レムを裏切り者扱いしたのは、お前とミカルだろう」
「否定するのなら、挽回して見せろと。私はそう言っているのですよ、イヴァン」
イヴァンはとっさに口内を噛んだ。そんなことにはならない。レムはイヴァンの手を受け取らなかったし、組織から離れなかった。
(ちがう。あいつが離れられないのは……)
「やめだ、アウリス。いま、お前と喧嘩しても、なんにもならない」
「そうですね。私だって、わざわざ疲れる真似はしたくありませんよ」
アウリスはベルを鳴らして、さっきの少年たちを呼んだ。
「ともかく、今日はここで泊まってください」
「しかし、俺は早く
「状況もわからないまま帰ってどうなります? 山越えの準備も必要でしょうに」
そう言われてしまえば二の句を継げなくなったイヴァンは、ここは素直にアウリスの厚意に甘えることにした。
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