それって、無自覚なわけ?
「本当に、大丈夫なんだな?」
医務室の主はいなかったが、代わりにベッドを占領する者がいる。
「うん。だから、大丈夫だってば」
イヴァンはべつに怒っているわけではなかった。
レムが訓練から逃げるのはいつものことだし、こうやって医務室でサボっているのも一度や二度ならず。
ただの
しかし、レムは三日前からずっと医務室に篭もっている。
人の多くて騒がしいところは苦手だと、本人は言っていた。いきなり貧血を起こしたのも、そのせいかもしれない。あのときのレムは本当に死にそうな顔をしていたから、それで余計にイヴァンは心配だったのだ。
「大丈夫だよ。たぶん、ただの風邪だと思う」
「風邪ぇ?」
生まれてこの方、風邪などひいたことのないイヴァンだ。
丈夫な身体に生んでくれた両親にはとても感謝している。エルムトの男子は身体の弱い者ばかりで、十歳まで育たない子どもが多い。そのため、エルムトでは男よりも女の数が多くなっているのだ。
「ちょっと見せてみろ」
毛布に包まって、顔だけ覗かせているレムにイヴァンは近付いた。
「な、なに……?」
引っ剥がされてベッドから引き摺り出されると、レムは怯えているようだがそうではない。イヴァンは自分の額をレムの額にくっつけた。
「う~ん。熱はないようだが……」
口をパクパクさせるレムをよそに、イヴァンは念のため体温計を探そうとする。
(
氷と雪と冬の国エルムトは、冬の期間が長くて夏なんてあっという間だ。
太陽の恩恵などほとんど受けられずに、夏は夏で長雨と嵐の日がつづく。だからイヴァンの妹エリサは、祈りの塔に篭もりきりとなってしまう。それが巫女の使命だとわかってはいるものの、ときどき妹が不憫でならなくなる。
「うう~ん、ないな。っていうか、これだけ散らかっていたら、探しようがないんだが……」
イヴァンはため息を吐いた。
オリヴァーもレムも、師弟揃って整理整頓というものが苦手なのだ。おかげで医務室はいつも散らかっていて、見かねたイヴァンが片付けようとしたものの、オリヴァーからは勝手に触るなと怒られてしまった。
「ん? どうした? レム」
そこでようやくイヴァンは、大人しくなったレムに気が付いた。顔が赤いのは気のせいだろうか。やっぱり熱があるのではないかと、ふたたび近付こうとして、レムは頭から毛布を被ってしまった。
「なんだよ、レム。どうしたんだ?」
「君のそれって、無自覚なわけ?」
「はあ?」
「僕に人たらしとか言うけどさ、君も大概だと思うよ」
「なんか怒ってないか? お前」
急に不機嫌になったレムは「もういい」と言ったきり、声を返してくれなくなった。
こうなったら頑固なレムだ。うんともすんとも言わなくなるので、イヴァンもそれきりレムに構わずに医務室を出て行く。レムは眠くなると機嫌が悪くなるという、子どもみたいなところがあった。
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