一番近くに
(仕方ない。本土の要人のところには、今日も俺一人で行くしかないな)
しかし、あの
おまけにエルムトに来てからというもの、要人は
(護衛は要らないって言葉も、べつに俺たちを
美しい金髪とアメジストの瞳。まるでどこかの彫刻が生を帯びて動き出したほど、精巧で整った
(それに、あの声……)
長々と会話をしたわけではなく、ちょっと挨拶程度の声を交わしただけだ。
それでも心地の良い低音が、イヴァンの
(そういえば、あのときからだよな。レムの具合が悪くなったのは……)
あの美しい護衛の男を一目見ようと、娘たちの熱気はすごかった。
イヴァンもレムも揉みくちゃにされたし、あそこで気分が悪くなるのも無理はない。レムの怠け癖も単に面倒だからという理由だけではなく、自分を守るためなのかもしれない。
エリサもユハも、レムをデリケートで大人しい白兎みたいだと言う。それほど繊細な性格には見えなくとも、当たらずも遠からずといったところだろう。
「なんだ、またレムを追いかけ回していたのか?」
上から降ってきた声に、イヴァンは足を止めた。オリヴァーだ。赤毛の軍医は長身のイヴァンよりも、もうすこし背が高い。
「そんなんじゃありませんよ。ただ、あいつ……、なんだかずっと具合が悪そうで」
「それはお前があいつをつけ回すからだろうが」
「俺はべつに、そんなつもりは」
「なんだ? 自覚なしってわけか。レムも災難だな」
イヴァンは思わずオリヴァーを睨みつけていた。
さすがに回廊では煙草を吹かしていなかったものの、オリヴァーからは色々なものが混じったにおいがする。煙草と薬品と、それから女物の香水のにおいだ。
「あなたにそんなこと言われたくはありません。レムを放っておいて、どこに行ってたんです?」
「知りたいか?」
なにが愉快なのかは知らないが、オリヴァーはにやにやしている。
答えをきかずともわかっている。どうせろくでもない場所に入り浸っているのだ。
「いえ、けっこうです」
「大人には色々あるんだよ。子どもにはわからんだろうがな」
「これ以上、レムに関わるな」
「……どういう意味です?」
ところが、オリヴァーはイヴァンを引き留めた。それは、イヴァンにとって聞き捨てならない台詞だった。
「あいつは色々抱えている。
「あなたは、なんでも知ってるんですね」
「ああ、お前よりはずっとあいつのことを知ってる」
頭に血がのぼりかけて、イヴァンは大きく息を吐いた。こんな安っぽい挑発に乗るほど、イヴァンは子どもではなかった。
言いたいことだけ言って去って行くオリヴァーの背中を見つめながら、イヴァンは二度目のため息をする。
自分がレムの一番近くにいるような気になっていたのに、本当はレムのことをなにも知らない事実を突きつけられて、ただただショックだった。
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