美しすぎる男
「うわ、本当だ。すごい人」
いつも静かな回廊が賑やかだし、大勢の人でごった返していた。
そのほとんどが若い娘たちで、どの娘も頬を赤く染めたりきゃあきゃあ言ったりと、とにかく騒いでいる。
「なんか、すごいね。イサヴェルの人間なんて、別にめずらしくないはずなのに」
「彼女たちからしたら、
「戦い……? なにそれ?」
「いや、俺にもよくわからないが」
イヴァンはときどき妙なことを言う。レムとしては、もうすこしちゃんとした説明がほしいところだ。
「隊長が言うには……、エルムトでは男が少ないから、こういう機会に
「ああ、そういうこと」
なんとなくレムにも理解できた。エルムトは男よりも圧倒的に女が多い国だ。つまり
「イヴァンのお父さんも、イサヴェルの人だったんだっけ?」
「ああ。父上はイサヴェルの官吏だったらしい。両親の馴れ初めは、やっぱり
「ふうん。つまり向こうも、お嫁さん探しってわけなんだ」
「まあ、そうだな」
イヴァンはさらっと言っているが、彼の実家はけっこうすごい豪邸だ。
イヴァンもエリサも、もう何年も帰っていないのは
「でも、こんなに集まってるってことは、競争率高そうだね」
レムは苦笑する。いつもはどこに行っても、持て
しかしすぐ近くにいるにもかかわらず、娘たちはまったくイヴァンに気付かずに、本土の要人とやらに夢中だ。
(そんなにきゃあきゃあ言うほどの美形なら、ちょっと見てみたい気もするけれど)
「おっと、挨拶に行かなくては、だな」
「ああ、うん……。そうだね」
とはいうものの、これだけ集まった娘たちを押しのけて要人にたどり着くのは、なかなか大変だし勇気が要る。
イヴァンほどではなくとも、レムもそれなりにちやほやされる部類である。
それなのに、娘たちはまったくこちらに気付かない様子で、容赦なく押し潰してくる。なんとか要人たちのところにたどり着いたときには、二人とも息絶え絶えといったところだった。
「遅れて申しわけありません。
さすがはイヴァンだ。もう帰ろうかと気が萎えたレムとはちがって、すぐ
「なんだ、まだガキじゃねえか」
しかし、返ってきた声は明らかな
思わず
(いや、こいつじゃない。だとしたら、注目されているのは護衛の方か……?)
わざわざこちらで護衛が必要ないというのも、優秀な護衛を付けているからだろう。
レムはそれとなく視線を流す。この出っ歯の男は、自分が持て
「言葉が過ぎますよ、閣下」
はっとして、レムは声の方に目を向けた。娘たちに囲まれた長身の男が見えた。
目が合ってしまった。そのとき、レムの肌が
「チッ、俺は別に護衛なんぞ、いらんと言ったがな」
「そういうわけにもいかないのでしょう。いくら私が付いているとはいえ。それに目を離した隙に、閣下がここで迷子になられても困ります」
「チッ、ガキかよ。俺は」
最初に声をきいたとき、レムはこれが何かの間違いか夢であってほしいと、そう思った。
イヴァンにつづいて名乗らなければならないのに、レムは声が震えてうまく出てこなかった。
要人の名前も、その護衛の名前も、耳を素通りする。
たしかに、その男は美しかった。
長身で
背に流した美しい金髪は、じっくり観察せずとも、よく手入れされているのがわかる。その
そして、
目を逸らしてしまいたいのに、あの目はどこまでもレムを追ってくる。
「レム……?」
イヴァンの呼びかけにも、レムは反応できずにいる。
容姿端麗な男を前に、極度に緊張してしまったのだと、きっとイヴァンにはそう見えたのかもしれない。
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