『ありがとう』が言えなくて
くまちゃん
プロローグ
「あなたには大事な人はいますか?伝えられなかった言葉はありませんか?」
一人の女性が郵便局のカウンター越しに座るお客さんに優しく問いかける。声は静かで温かく、薄暗いランプの光がその柔らかな表情を照らしている。
「何気ない日常の中で、私たちは多くの人と関わり合いながら生きています。家族、友人、恋人、同僚…。その中で、何度も感謝の気持ちを抱く瞬間があるはずです。それは小さな親切から、大きな支えまで。けれど、その感謝の言葉をきちんと伝えられたことはどれほどあるでしょうか?」
お客さんは彼女の言葉に耳を傾け、心の奥にある思い出を探り始める。続けて語りかける。
「『ありがとう』はたった五文字の言葉。でも、その一言がどれほどの力を持っているのか、私たちは時に忘れてしまいます。その言葉が、どれほど相手の心に響き、どれほど自分自身の心を軽くするのかを。」
彼女の優しい目が、お客さんの心の奥深くまで届くように見つめている。
「もしも、あなたが大切な人に『ありがとう』を伝えられなかったとしたら。その後悔はどれほどのものでしょうか。言いたいと思った時には、もうその人がいない。そんな思いを抱えたまま、日々を過ごすことになるかもしれません。」
お客さんはゆっくりとうなずき、その言葉の重さを感じ取る。
「ここは、そんな『ありがとう』を伝えられなかった後悔を抱える人々が集まる場所です。あなたのように。『過去』の誰かに手紙を書くことは自分自身の心と向き合うきっかけになるかもしれません。…もしかしたら不思議なこともあるかもしれませんね。」
そう言って彼女は静かに微笑む。その言葉に、静かな郵便局の空気が一層深まる。問いかけは、心の奥底に響き渡る。
「さあ、あなたも一緒に、この郵便局の物語を旅してみませんか?もしかすると、あなたも誰かに『ありがとう』を伝えたくなるかもしれませんよ。」
その穏やかな声は、お客さんの心に新たな決意を芽生えさせる。その日から始まるのだ。小さくても大切な…そんな奇跡を信じて。
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