第六話 フェリーク・フォンテーヌ

~とまと日記~

とまとの芽が出てから四日が経った。

現在のとまとの様子は、

「――もう実っているだとおぉぉぉぉ?!」


 そう、五日前種を植えたはずのとまとはもう、耕の膝まで伸び、大きな実をたわわに実らせていた。


「うぅ~ん。何故だ?異世界、だから…?ヘレナ、分かる?」

《えぇー…恐らくですが、【園芸】スキルの生長速度促進、さらに水やりに使用した

 水が原因かと》

「え、えぇぇ…?すご」


 【園芸】スキル万能すぎだろ。

 ってか、水やりに使用した水って、すぐそばの川の水だよな…。キラキラしてるなとは思っていたけど…。


「なんで…」

《あぁ、お伝えしていませんでしたっけ。そこの小川には、精霊の泉、[フェリーク

 フォンテーヌ]の水が流れているのですよ》

 はぁぁ?聞いてないわ!

「~!!!何、その『フェリーク・フォンテーヌ』って何なの?」

 

 内心、早く言っとけよとイライラしながらも、ヘレナに聞く。


《あぁ、そうですねぇ……。えー、『フェリークフォンテーヌ』というのはです

 ね……》


 ―――——————――——————――——————――——————―――

 

 ヘレナの話によると、精霊の泉、こと「フェリークフォンテーヌ」は、この世の創造神、地、水、風、火の四大女神、クレエによって創られた、様々な属性の精霊たちが集う場所とのこと。とても神聖な場所で、悪意を持って近付いた人、魔物(もっとも魔物は、そこまでの知能を有する者がほとんどいないのだが)は、灰にされてしまうとかしないとか。

  また、その泉に近付くことを許され、水に触れる、または水を飲むという行為をしたものは、たちまちけがや病気、持病までもが治り、果ては若返った気さえするような快感を与えるとか与えないとか。

 

 って正確じゃない情報多いな!と思ったそこのあなた。だってフェリークフォンテーヌに実際に行ったことある人は極僅かなんだもん!

 

 あぁ、そうそう、ちなみにここからの距離はと言うと、分からない!「フェリーヌフォンテーヌ」がある場所について分かっていることはただ一つ!


「この川をたどれば何とか着く!ということ!」 ビシィィ…!

《いやいや、それはみんな分かっているのではないでしょうか》

「………。もう!せっかく女神だとか魔物だとか精霊だとかわかんない情報があるっ  

 て中でカッコよく決めたと思ったのに!!てかみんなって何!」


 顔を赤らめ耕は言う。


「はいはいすみません。水やりはしなくていいのですか?」


 あぁ全くもうコイツは。とでも言いたげな声色だ。ヘレナに顔がなくたってわかる。うん。


「…するけど。さっきの聞いた後だと、そこの小川の水使う気にも、なかなかなれな

 くない?」


 先ほどのこともあり少しいじけていた耕は、しゃがみ込んでとまとをつつきながらら言う。

 こう見えて僕の心はガラスのハートなのだ!


《…あ、てかとまと収穫しないといけませんね》

「うん。現実世界あっち行ってザルか何か持ってくるよ……」

《あ、はいじゃあ―》

 ―シュンッ


「おい急だろ!」

≪え、すみません…≫


 現世へ戻り、現在ヘレナは白い球体に戻り、耕へは脳内に直接言葉を語りかけている状況だった。最初にそんなことができると知ったときは驚いたが…

 突然こっちに戻らされた今の方がビビっている。


「もう!ほんとに突然なんだからぁ~!!」

《すみません…》  「!?」


 へ、ヘレナが落ち込んでいる!?ちょっと可哀そうかもしれない…


「…ごめんよヘレナ」  ≪………≫

 ヘレナは黙っている。

「ごめんよ?」  ≪許しません≫


 はぁぁ?!こいつマジで言ってんの?!


「やっぱりさっきの言葉撤回~!!」

 キッチンの棚から笊をガサゴソと取り出し言う。

≪あ。え、いや~ちょっとしたジョークのつもりで~…!≫

 珍しくヘレナは慌てている。

「………」  ≪耕様??≫

「…いいよ。しょうがないなぁ。異世界戻るよ」

≪あっ、はい良かったです。それでは異世界へ≫

―シュンッ


 ドスッ。いってぇ~!!

「ヘレナ!反省し――」

 本日二回目の突然ワープに思いっきり尻もちをついてヘレナに文句を言おうとするも…

 目の前数十メートル先にはちび狼が二匹。

 あ。もう驚けないわ。

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