最善の戦闘術

「まず最初に魔術は現代魔術と古典魔術に大別化できる。現代魔術は数学や化学などの理論を組み込んだもの、古典魔術は感情やイメージが基礎となっているものだ。古典魔術は古代魔術とは違うので注意するように」


魔術により大気中の水分で作られた氷塊を切断しながら、僕は理論魔術と古典魔術の違いを説明する。


「そして現代魔術には理論化魔術と未理論魔術に二分化できる。広義的な説明になるが理論化魔術は学べばある程度誰でも使える魔術、未理論魔術は一部の人間にしか扱えないものと覚えておけ」


魔術により構築された鉄の剣による足狙いの攻撃は、その場で軽く跳躍して避ける。


「ここでクイズだ、現代魔術の開発された結果どうなった?はい今僕に殴りかかってきたアリソン答えろ」


アリソンの整ったスタイルから繰り出される徒手空拳を受け流しながら僕は問う。


「古典魔術は一部の才能がある人物しか使えなかったので貴族の権威や特権とされて扱われましたが、現代魔術の開発により市民も扱えるようになりこれを危うく思った貴族は平民から学問全般を取り上げようとした結果暴動、が起こりました」


「正解だアリソン、バーミンガム革命も覚えているようで結構。それとそのくらいの火力じゃ簡単に打ち消されるので注意するように」


ヴィグローズが使ったエネルギーを打ち出す魔術を、似たような魔術で反撃する。

変換効率や構築速度も段違いなので、勢い余って過剰火力にならないように用心しつつ打ち消す。

学生時代に壁に風穴を開けて怒られた苦い記憶があるからだ。


「さて戻って魔術の全てはいくつかに分けられることができる、医療などにも一部使われる生体変化学、エネルギーに関する動力変換学⋯⋯っとと」


次は二尺三寸程の刀による首切り。

これを受けたら流石にまずいので上体を少し後ろにそらして避ける。


「今のは良い一撃だな、そして物質の構造を作り変える構造変形学、最後に説明が難しい形而上理論学だ。そしてその攻撃は甘い」


後ろに回れば気づかないとでも思ったカズローチャに軽めの蹴りをいれる。

反撃されることを想定していなかったのか、僕の回し蹴りをもろに食らったカズローチャは横腹を抑えながら怒った。


「⋯⋯っクソ講師ぃ!少しは驚けよ!?」


「出現タイミングが分かっているホラーゲームに驚けとは無理を言うなカズローチャ」


「それもそうですけど、なんであの魔術の雨霰をくぐり抜けられるのかしら?」


「どんなに大量の弾幕だとしても弾いたり吹き飛ばせば意味がないからね、アリソン」


「それはまぁ理解できるんですけね橘先生⋯⋯なんでそんなに魔術の構築速度が速いんですか?僕たちの攻撃を見てから構築してるのに間に合うって⋯⋯」


「⋯⋯わかった、丁度いいからそこも教えよう。全員、席につけ」


僕がそう言うと、疲労困憊な生徒全員が椅子に座りながらうなだれる。

長時間飛んだり跳ねたり魔術を使ったり殺し合っていたので当然と言える。


チョークを片手に持ち、僕は文字やイラストを書き始める。


「まず魔術の本質はなにか、魔術学会では色々と議論されているが僕の考え方ではと思っている」


そもそもとして、火を起こすなら魔術を使わないでマッチを使えば良い話だし、建物を作るならば工具があれば良い。

なにより、敵を殺すなら武器が一本あれば良い。

上質であるならば尚良い。

折れず曲がらずならば更に良い。


「なんなら我が身一つあれば最悪行ける、ぶっちゃけ武器は現地で揃えたらいい」


「なんでそんなことが言えて⋯⋯あぁそうでしたね橘先生手ぶらと魔術縛りで俺たち全員蹂躙しましたね」


学生ではなく本物の軍人となれば話は変わるが、それはまぁ置いておこう。

ではどのようにして魔術の速度や構築速度を上げられるか?


「結論から言えば、


僕がメインに使っているのは現代魔術なのだが(古典魔術は才能がなかった)、その中でもエネルギー関連の魔術である動力変換学を使う頻度が多い。

クロスボウから放たれる矢の速度を上げたり、片手に電気を溜めてスタンガンにしたり、場合によっては逆位相で足音を消す場合もある。

しかし通常の場合、どれも使用するには構築するのが大変だ。

単純な運動エネルギーの増加とかならまだしも、量子力学とか高度な数学とかもう何がなんだか微塵もわからない。

あれ人間がやる学問じゃないだろ、セフィラの後輩は分かるみたいだが。


「ではどのようにして効果を上げたか?それは


魔術の発動をする度に魔力をどれほど変換するか、効果範囲などの数値をいれる必要がある。

だがそれを考えても有り余るほどに効果が上がる、むしろ条件が縛られたことにより更に上がる。


セフィラみたいな特別な才能がない限りこれをやった方が良い、公式と計算方法さえ覚えれば構築速度も加速度的に増える。

少なくとも、よく使う魔術は覚えていた方が良い。


「生体変化学の治療医術系統と似たようなものかしら?あれは医療知識が必須ですもの」


「概ねそうだな、まぁ脳内で計算する必要があるにはあるから計算速度と構築速度が比例するのが欠点でもあり利点だ」


「それつまり橘先生の計算速度がおかしいって話ですよね?」


そうなのかもしれないが、僕の使っている魔術は構築速度が元々短いものだ。当然として構築方法すべてを暗記すれば飛躍的に加速するだろう。

受験期の学生が穴が空くほどに公式を暗記するようなものである。

それに僕以上に構築速度が早い人間は普通にいる。


「とまぁここまで色々と語ったが、


「えっ」


僕のその発言に生徒の殆どが目を丸くする。

その反応は当然だ、長々とつらつらと御高説をたれてからその前提をすべてふっ飛ばすような話をするやつがどこにいる?

残念ながらここにいる。


「確かに魔術の効果を上げるのはいいかもしれない、だが結論から言えば相手を殺すのにわざわざ魔術を使う必要なんてない。魔術にしかできないこと事はあるがそれ以外ならば手品にしかならん」


「いや、でも、早ければ早いほど戦闘にはいいんじゃないんですか?」


「もしかしてだが特撮モノみたいに敵が変身を待ってくれるとでも思っているのかい?そりゃ儚い幻想ってもんだよヴィグローズ」


むしろ戦場においては隙にしかならない。

わざわざ敵を一撃で殺そうと詠唱をするなど、殺してくださいと言っているようなものだ。

自ら弱点をさらしてくるゲームのボスとやっていることは何ら変わらない。


「じゃあ戦場ではどうするんだクソ講師?」


「そんなのは簡単だカズローチャ、最善の戦闘術とは結局の所二択に絞られる」



「⋯⋯戦闘術というか暗殺術じゃ?」


「そうだ、だが所詮暗殺術も戦闘術の一つだ」


まぁとなれば話は変わるのだけれど


だが結局の所これが一番手っ取り早い

認識できていないのだから対処もできなければ反応もできない。

防御すらできない速攻でも

超遠距離から放たれる狙撃でも

就寝時に心臓を突き刺しても

食事に劇毒を混ぜ込んでも


「結局の所、最後に生き残っているのが勝ちなんだからさ」


少なくとも、僕はあの戦争でそう思った。

――――――――――――――――――――

あとがき

なんとなく理解する魔術体系。

・生体変化学

怪我とか直したり小動物の操作、精神系もある

・動力変換学

電気とか炎とか衝撃、投擲物の威力強化もできる

・構造変形学

錬金術とか土の操作とか大気の操作とか

・形而上理論学

概念相性押し付けバトル

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