皮肉には皮肉を、不義理には不義理を

「で、なにをやらかしたんですか?先輩」


生徒達相手に一方的な蹂躙をし、教員たちと生徒たちにその光景を見せつけた僕は、セフィラの仕事場である学園長室で、ツルのような植物で縛られて正座をさせられていた。


さすが学生時代は首席だったセフィラの魔術である、引きちぎろうとしてもびくともしない。そのせいで少し鬱血してきて結構苦しい。


「⋯⋯生徒相手に殺戮をしました」


「なにやってるんですかぁぁぁぁ!?」


セフィラは頭を抱えて大声で叫んだ。

それは怒りというよりも困惑のほうが強い叫びだった。

まぁ、その困惑の生みの親である僕がどうこう言えたことではないのだけれども。


「ちなみに魔術は使いませんでした」


「それは⋯⋯まぁ⋯⋯良いんですが⋯⋯!」


「まぁ大丈夫じゃない?だってあのクラスは所謂でしょ?親は心配どころか気にもかけない生徒の集まりだろうし、だからといって見捨てるつもりはないけど」


まぁこのシモン中央学院で落ちこぼれと言っても、世間一般的にはエリートの部類には入るのだけれど。

それに明確にはといよりもの集まりのような気がする。


「言い方どうにかならなかったんですか先輩、あってるにはあってるのが酷いんですけど」


「まぁ僕も考えなしに殺戮を行ったわけじゃない、色々と考えてはいるよ」


「じゃあせめて!事前に!相談!して!くだ!さい!」


「相談したら止められそうだったから⋯⋯」


「むしろ良い方向に転がり落ちるように根回しするので!だから相談してください!相談できないってほどの仲の悪さじゃないですよね!?」


――――――閑話休題。


「それで、どうでしたか?」


「まぁまるっきり見込みがないってわけでもないかな、生徒の方は」


「つまり魔術至上主義の方は難しいと」


理解が速くて非常に助かる後輩だ。


「まぁ人の考え方を変えるのって難しいからね、信じるものを打ち砕けばその考え方はどうにかできるけど、如何せん今回は相手が悪い」


社会生活の基盤にすらなっている魔術、軍事はもちろん、民間企業のゲームや車さえも魔術が使われている。

まぁアルビオン王国は古典的な魔術を好む人間が多いのだけれど。


「⋯⋯というかさ、本当に僕が講師でいいの?他に適任がいるんじゃないの?ほらゲヴールとかジェイミー先輩とか」


「ゲヴールさんは孤児院の経営で忙しいでしょうし、それに彼は一つの魔術しか使えません。ジェイミー先輩は、まぁ、天才ですけどほら、感覚型なので⋯⋯」


「⋯⋯⋯あぁ、うん」


その発言だけで僕はすべて理解して納得した。

あの先輩は人に物事や技術を教えるのが致命的に下手くそだということを思い出した。

学生の頃魔術の効率的な発動方法を教えてもらったが『がーっとやってホイだよ、もしくはぎゅっとしてドン。え、わかんない?凡才だね』と言われた。

思わず『それで効率化できるならすべての技術者は食いっぱぐれるでしょうよ!』と叫んだ思い出がある。


「まぁ、とりあえずはしばらくお願いしますね?先輩」


後輩はそう言って、これからの生活が楽しみだと言わんばかりにはにかむ表情を見せた。


――――――――――――――――――――


その後の僕はセフィラと別れ、久しぶりの校内を歩いていた。


「結構変わらないものだなぁ」


上半身はぐるぐる巻きだが、幸いにも足だけは縛られなかったので歩き回れる。

学生時代振りなので少しばかり懐かしさを僕は覚えた。


「この爆発の焦げまだ直されてなかったんだ」


学生の頃は色々と楽しかった記憶が多かった。

まぁ教師陣からすれば問題児として知れ渡っていた、それは僕だけでなくセフィラはもちろん、セフィラの後輩であるローリアや僕の先輩であるジェイミー先輩もだ。

四人まとめて「シモン中央学院の四馬鹿」「中央学院の暴走列車」と呼ばれていた。

皮肉や罵倒の意味も込められているのだろうけれど、むしろここまで来ると誇らしく思えてくる。

反省すべき過去なのは間違いないが。


そうして、過去の記録を思い出していると、僕に話しかけられる声があった。


「君が先程の劇の主役か?」


「⋯⋯これはこれは、ジャイルズ先生ではないですか」


やけに綺羅びやかで豪華な衣服を着ている、立派なヒゲを蓄えた老獪な雰囲気をした老人のバフォメットヤギ

先程の生徒相手に戦った試合を真っ先に止めようとしたジャイルズ・キャンベル・マッカートニーが話しかけてきた。

はっきり言おう、僕はこの先生が嫌いだ。


やたらネチネチとした言い回しや皮肉をしてくるし、それでいてその重たい腰を動かすことがない。


「いやはや劇とはありがたい褒め言葉ですね、もう一度お見せしましょうか?それとも今度はジャイルズ先生も一緒に劇をしましょうか?」


「大変嬉しい誘いだが遠慮させてもらう、もしも二度目の公演があるのならば足を運ばせてもらおう、それまでに演技が上達していることを願っているよ」


「応援どうも感謝します、二回目までにジャイルズ先生が健康でいられることを祈っておきます」


「⋯⋯しかし学園長の考えは理解できんな、あのようなに講師を付けるなど、何を考えているのやら」


「もしかしたら慎重なジャイルズ先生には思いつかないような勇敢な計画があるんじゃないんですか?」


「「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」」


よしダメだ殺そう今殺そうそうしようアンガーマネジメントを試してみたけど怒りが殺意に昇華されただけだ今なら周りに誰もいないし殺しても問題ないその首跳ね飛ばして腹掻っ捌いて内臓全部ぶちまけてやる二度と舐めた口聞けないように死人にしてやるぶっ殺してやる。


「橘先生、ジャイルズ先生」


僕がジャイルズの皮肉に耐えられず、大人気なく武器を抜こうとした瞬間に後ろから声が聞こえた。

その姿は先程まで話していた後輩、セフィラだった。

セフィラの顔を見た途端、怒りに支配されていた感情がすっと落ち付く。


「ずいぶんと楽しそうな会話をされているようですが、ご自身の仕事は終わりましたか?」


「⋯⋯無論だ、あのような仕事に手こずっていては中央学院の名誉教授などできん」


「それならばもうすぐ授業の時間ではないでしょうか?それかご自身の立派な時計は飾りでしょうか?」


「⋯⋯⋯⋯ふん」


セフィラの物言いが気に食わなかったのか、別れの挨拶もせずに教室に向かった。

僕は皮肉を交えた会話は苦手である、舌先三寸で行われる卓上のパイを取り合うなど上に任せていれば良い。それこそセフィラのようなエリートに任せる。


「⋯⋯セフィラ、すまんな」


「いえ、こちらとしても先輩に暴れられるのはすこし、いやちょっとかなり困るので」


「それに関しては本当に申し訳ございませんでした」


――――――――――――――――――――

あとがき

名前:セフィラ・ファルノーラ

種族:エルフ

別名:「創樹セフィロト

役職:特別処遇魔術師

備考:学園長

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