百合一輪を

菫野

百合一輪を

むらさきに綴ぢられてゆく感情のゆふぐれバスは永遠だつた


海底をめざして歩き出したのにいつしか時計塔へ来てゐる


髪洗ふひとはさびしきかはたれのそら鷺色の月が見てをり


たれもたれも髪を洗ひぬあんなにも宇宙にひとり蹲りつつ


ゆびさきの刺青 魚 ひらひらと水に浸せば沖へ揺れゆく


アルファでありオメガであるといふ神ののみどの辺り傾く地球


風船のやうに鯨を散歩させ日記に今日も快晴と書く


ブルーマロウにレモンを搾る真夜中の「われを容れざる世界をおもふ」


卵割るたびあらはれる黄昏くわうこんを菜箸でとく神のごとくに


夕映えの平均台を踏み出して捧げ持ちたる百合一輪を

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