転生したら自然の中の弓でした

白雪 氷華

プロローグ

 私の名前は鵬鳥麻璃亜。巣立ち済みの成人で、頼れる親無し友人無し。姉妹兄弟そもそもいない。そんな私のある日の出来事——


 うーん、ようやく終わったー!

 部下たちが帰り、上司も帰った午前4時。出勤時間は午前4時30分。私はパソコンの前で伸びをしていた。

 ここはブラック企業。「アットホームな会社」を謳う企業だ。本とかであるテンプレってやつだね、ブラック企業とは気づかずに入社して今地獄を見ているよ。まあ、キャッチコピーは一応合ってるよ。前にこの言葉が付くけどね。

アットホームな会社」

 ちなみに私は15年程勤務していて「上」には入ってるんだけど…

 やっぱり、新しく入ってきた人たちって若いんだよ。あれくらいの頃は青春謳歌しときなさい。私みたいに会社に籠って青春生活が丸ごと無くなった人にならないようにね…

 というわけで自主的に仕事を肩代わりしてる訳ですよ。

 おかげで私以外は定時で上がれてます。だけど部下たちはここがブラック企業で私が肩代わりしてることを知らないから、「主任仕事遅!www」「こんなんで認められる訳ないでしょ?いくら金積んだの?」「自分たちより仕事遅い人の下に付くなんて…」とか言ってくるんだよね。あんたらの仕事代わりにやってるから遅くなるんだよ!純粋な仕事スピードでは私の方が早いんだよ!

 まあこれは置いといて…

 家に今日で消費期限切れる高級ゼリーあったの忘れてた!今日会社に常備してある寝袋で寝るつもりだったから今日しなくてもいい仕事とかもやってたんだけどなぁ…

 幸い会社から徒歩5分のマンションの1階に住んでるから睡眠時間確保しても食べられる!急いで家に行くぞ〜!

 道路の歩行者信号が青になったのを確認して、

「あ」

 なんと信号無視のトラックがいたんだよ…

 なんでこんな都合の悪いタイミングで…?

 私、悪いことしてないよ…?

 いや、若い人材の育成の邪魔をしたのかな?

 スローモーションの中、私は走馬灯を見る。


 仕事に慣れない内は5日おきに徹夜という人外な行動して——

 まあそれ、昼間寝られないし最大睡眠時間3時間とかいう感じだけど——

 さりげなく上司から上司の分の仕事振られて——

 ようやく上に上がれたと思ったらさらに上があってそこからも私の担当じゃない仕事振られて——

 私の専門外な仕事を振られて1日その事について調べる許可取ったのに取ってない事にされて明日の仕事8倍にされて——

 うん、全部仕事のことだね…

 忘れてたけどこの会社ってこんなにブラックだったんだ…


 いやー、走馬灯って本当にあるんだね。でも、走馬灯が見えるってことは死?

 お父さん、お母さん、私 鵬鳥ほうとり 麻里亜を産んでくれてありがとう。

 お父さん、お母さん、走馬灯に2人が出なくてごめんなさい…

 視界が暗転する。近くで声がするような…多分不注意だった運転手だね。ごめんね、私も焦ってても左右確認すべきだったよ。

 スローモーションが多分切れた。意識が急速に閉じていく。

 さようなら、みんな。




〈あなたをフィドクオリタに転生させます。〉


〈あなたがこの世界で素晴らしい第2の人生を歩めますように〉


〈神一同、心より願っています——〉




 目を開いたら、自然の中にいました。

 そして、弓になっていました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

隔週 日曜日 17:00 予定は変更される可能性があります

転生したら自然の中の弓でした 白雪 氷華 @kakakekakekekakekake

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画