初恋失うことなかれ

@mikan_orange1111

 

 満開の桜を見ながら、山吹雫やまぶきしずくは入学式に参列していた。

校長先生の長い式辞や学校についての説明などが終わり、ようやく帰ることができた雫は気絶するようにベッドで眠った。


 翌日、学校ではこれからの学校生活の説明や自己紹介などをされ、最後に部活動体験が今週一週間行われることが伝えられる。

雫はどの部活の体験に行こうか悩んでいたが、音楽が好きなので吹奏楽部へ行こうと思い、音楽室へ向かった。


「すみません。誰かいらっしゃいますか?」


雫は音楽室の扉をノックし、声をかける。

すると、中から青年が出てきた。


「部活動体験に来たのか?」

「は、はい!」


雫は戸惑いながらもなんとか返事をした。

雫が戸惑ってしまった理由…。

それは、青年に一目惚れしてしまったからである。


「今、顧問がいないから何もすることがないんだ。なんでここに体験しに来た?音楽が好きなのか?」


雫は唐突な質問に少し困惑しながらもしっかりと答えた。


「はい!音楽やりたくて!えっと先輩は…」

高光海斗たかみつかいとだ。」

「え?」

「俺の名前だ。俺はここの部長だからな。覚えておいてくれ。」

「分かりました!高光先輩!」

「海斗でいい。」

「え。ですが…。」

「俺が良いと言ってるんだから良いんだ。」

「わ、分かりました!海斗先輩!」

「ああ。」


海斗が微笑む。

雫は名前を教えてくれただけでも嬉しかったのだが、海斗に微笑まれ心臓が止まりそうだった。

そして、部活動体験が始まる。

吹奏楽部の体験に来たのは雫一人だった。

顧問は雫に楽器を選んでみてと言い、雫はフルートを選んだ。

顧問は雫に、とりあえず吹いてみようと声をかける。

雫は言われた通りにフルートを吹いてみたが音は鳴らなかった。

雫が困っていると、海斗が雫にフルートを貸してほしいと言い、雫が素直に貸すと海斗はそのまま吹き始めた。

雫は数秒固まったあと、これって…間接キスじゃないの!?と顔を真っ赤にして俯いた。


「こうやって優しく吹いてみろ。そうしたら音が出る。…大丈夫か?顔、真っ赤だぞ?熱でもあるんじゃないのか?」


そう言った海斗は雫の前髪を手で上げて、自分の額を雫の額にくっつけた。


「っ!?」


雫は何が起きたのか理解できず、また顔を真っ赤にする。


「熱いな…。やっぱり熱があるんじゃないのか?保健室行くぞ。」

「へ!?い、いやいや!大丈夫ですから!」

「だが…。」

「ほんとに、大丈夫なので…。」

「…そうか。体調が悪かったらすぐに言え。」

「はい…。すみません…。」


雫は複雑な気持ちだった。

なぜなら、海斗の行動に照れて顔が赤くなり、熱っぽくなったのに、その本人に心配されているからである。

そして、あっという間に一週間が過ぎた。

雫はもちろん、吹奏楽部に入部した。

当初の音楽という目的を忘れ、海斗と仲良くなるために入ったのだが…。


 ある日の放課後、雫は空き教室で海斗に勉強を教わっていた。


「すみません、海斗先輩だって忙しいはずなのに勉強なんか教えてもらっちゃって…。僕、勉強はどうしてもだめで…。」

「気にするな。自分で言うのも何だが、俺は一応、学年トップの成績を取っている。それに、人に教えるのも得意なんだ。だから大人しく俺に教わっとけ。」

「あ、ありがとうございます!」


雫は今まで、面倒だと言って誰にも教えてもらえなかった勉強を教えてもらえたので、とても嬉しくなった。

そして、雫は勇気を出して海斗に話しかける。


「か、海斗先輩。一か月後の文化祭、一緒に回ってくれませんか?」

「急だな。別にいいが。」

「え!?あ、ありがとうございます!まさかオッケーされると思ってなくて!た、楽しみにしてますね!」

「ふっ!ああ。俺も楽しみにしている。」


そして、海斗は雫にすぐに戻ってくると伝え、教室を後にする。

海斗が出ていくまで雫は固まっており、海斗が出ていってから雫は、海斗先輩、さっき微笑んだ!?すっごく爽やかだった!と考えていた。

そして、本音が出る。


「海斗先輩、かっこいいな…。」


雫の呟きは、誰にも届くことなく空気中に溶けていった。

教室に誰もいなかったのは、幸か不幸か…。


 翌日、雫が体育館裏を掃除していると、女子生徒の声が聞こえてきた。

この体育館裏はほとんど人が来ないため、不思議に思った雫は声が聞こえてきた方に向かい、顔を覗かせた。


「っ!」


雫は、興味本位で覗いたことをとても後悔した。

なぜなら、そこにいたのは自分が憧れ、尊敬し、密かに恋をしている海斗が女子生徒に告白されている最中だったからだ。

雫は掃除しなければならないことを完全に忘れ、自分の教室まで全力で走り、荷物を取って海斗に出会わないように急いで帰った。

雫は、今日の放課後も勉強を教えてもらうはずだったのに、何も言わずに帰ってきてしまったことに罪悪感を覚えたが、海斗が告白されていたという事実によって受けたショックの方が大きかったため、海斗に謝るという選択肢が雫の頭から無くなっていた。


 そして一週間後、雫がいつものように教室で昼食をとっていると、突然海斗が雫の教室に現れた。

海斗は学校で一番モテているため、教室にいる女子が『きゃー!』や『海斗様じゃない!』『どうしてここに!?』などと騒いでいる。

雫はクラスに馴染めておらず、友達もいないため、一人で昼食をとっていた。

雫は、まあ僕には関係のないことだと考え、静かに食べ進めていると、海斗が近づいてきた。

クラスメイトたちは『なんで海斗様があんなやつのところに?』や『意味分かんない!』などと叫んでいたが、雫も意味が分からず、目の前に立っている海斗を見つめるしかなかった。


「来い。」


それだけ言った海斗は雫の腕を引っ張り、屋上へと向かう。

クラスメイトたちは一瞬の出来事に呆然としていた。


 屋上に着いた海斗は雫の肩を掴むと質問をし始める。

雫には海斗がとても怒っているように見えた。

否、海斗は怒っていた。


「一週間前、お前は俺と勉強する約束を守らなかったよな?いつもの空き教室で俺は二時間待った。でも、お前は来なかった!今週一週間ずっと、お前に話しかけようとしても避けられ続けた!お前、そんな不真面目なやつじゃなかっただろ!何があっ…た…雫、お前…泣いてるのか…?」

雫の目から大粒の涙がこぼれ落ちる。

海斗は怒りすぎてしまったと反省し、雫に問いかける。


「すまない…。お前の意見も聞かず、一方的に怒ってしまった…。悪かった…。」


それでも何も言わず、涙を流し続ける雫を見て、海斗は体調が悪かったのかと焦り始めた。


「も、もしかして…体調が良くなかったのか…?す、すぐに保健室に…」

「せん…ぱ…が…」


雫が話し始めたため、海斗は口をつぐみ、静かに雫の話を聞く。


「先輩…が…女の子に…告白されてるとこ…見ちゃったんです…。それで…気まずくて…。今まで逃げてました…。勉強…教えてくれるっていう約束…守れなくて…すみませんでした…。僕…先輩に…迷惑ばっかかけて…本当にすみません…。僕…先輩のこと…応援してるんで…!お幸せに…。失礼します…。」


雫が泣きながら言葉を紡ぎ、屋上から出ようとすると海斗が雫の腕を引っ張り、自分の方へと引き寄せた。


「?」


雫は何が起きたのか分からず、頭にはてなマークを浮かべる。

そんな雫に、海斗は話しかけた。


「まずは謝らせてくれ。そんな場面を見せてしまって、本当に申し訳なかった。俺も、先輩のそういう場面を見たら、気まずくなって避けてしまうだろう。それなのに俺は、勝手に被害妄想を膨らませ、挙げ句の果てに何も悪くないお前に怒ってしまった。俺の方が怒られるべきだったのに…。本当にすまなかった…。」


海斗が頭を下げる。

海斗の行動に雫は驚き、焦って声を出した。


「せ、先輩は悪くないです!僕が興味本位で勝手に覗いてしまったので…。でも良かったです。最後に先輩と話せたので!どうかお幸せに。」


雫がもう一度、屋上から出ようとすると海斗が引き止める。


「もう一つ、言いたいことがある。」

「?」


海斗の発言に雫は首を傾げた。


「俺がいつ、そいつと付き合うといった?俺は告白を断った。勘違いするな。」

「あ…そうだったんですね…。すみません、早とちりしてしまって…。」

「いや、すまない。怒っているわけじゃないんだ。」

「大丈夫ですよ!先輩のことは、ちゃんと分かってますから。」

「もう…海斗先輩と呼んでくれないのか…?」 「え…?呼んで良いんですか?」

「当たり前だろう。むしろ、そっちの方が嬉しい。」

「わ、分かりました!海斗先輩!」

「…ああ。やっぱりそれがしっくりくる。ありがとう。」

「い、いえ!とんでもない!」

「あんなことをしでかしたのに、まだ先輩として慕ってくれるなんて…。俺は良い後輩を持った、幸せ者だな。」

「そ、そんなこと!僕も幸せです!海斗先輩のような人が先輩でいてくれて!」

「…そうか。」


海斗は雫の言葉に目を見開いたが、すぐに微笑んだ。

雫の心の中は安堵と幸福感でいっぱいだった。

安堵した理由は、まだ想いを伝えられるチャンスがあり、そして恋人になれる可能性が少しだけでも残っているからである。

幸福感を感じた理由は、また海斗の微笑みが見られたからだ。

そして雫は決めた。


──文化祭で、成功しても失敗しても、この想いを海斗に伝えることを。

 

 そして文化祭当日、雫は校門前で海斗を待っていた。

「待ったか?」

「い、いえ!全然!」


楽しみすぎて一時間前から待ってたけど…と雫は思ったが、もちろん言わなかった。


「そうか。ほら、行くぞ。」

「はい!」


二人が歩き始めると、周りから雫へ、嫉妬の目を向けられ、妬みからなのか、ひそひそと雫の悪口を言われる。

雫は不快に思いながらも、海斗に心配をかけたくないという思いから平然を装った。

しかし、周りの言葉は海斗にも聞こえており、海斗の眉間に皺ができる。


「雫。今日は俺と二人で回るんだから、俺のことだけ考えてろ。あんなやつらの言うことなんて気にしなくて良い。文化祭楽しむぞ。」

「っ!はい!」


海斗の一言のおかげで雫の心は軽くなる。

そして雫は『今日絶対に告白してやる!』と決意をより強固なものへと変えるのだった。


 そして二人は他クラスの出し物である、お化け屋敷に来ていた。

雫はお化け屋敷が苦手なのだが、海斗と一緒なら大丈夫だと自分に言い聞かせ、中へと歩みを進める。雫が、怖いな…と考えていると、目の前にあったロッカーから人が出てきた。


「うわぁ!」


雫は驚きのあまり、海斗に抱きついてしまった。


「す、すみません!すぐ離れます!」


雫が慌てて謝り、海斗から離れる。


「雫、もしかして…お化け屋敷が苦手だったのか?」


海斗が雫に問いかける。

雫はこれ以上は隠せないと思い、正直に話した。


「そうなんです…。僕、お化け屋敷とか怖いの苦手で…。海斗先輩とならいけるかなって思ったんですけど…。迷惑ばかりかけてしまって、本当にすみません…。」


雫が頭を下げる。

海斗は何も言わなかった。

そんな海斗に雫が、やっぱり迷惑だよな…。海斗先輩から離れなきゃ…と考えていると、海斗に雫に手を握られる。


「え…?あの…これは…?」

「怖いんだろう?俺と手繋いどけ。少しはマシになるだろ。雫の意見、確認せずに来ちまって…ごめんな。」

「い、いやいや!僕が言わなかっただけなんで!」


雫はすぐに反論したが、海斗のそんなことない。という言葉でかき消された。


「早く出た方がいい。手、しっかり握っとけよ?」

「は、はい!」


雫はお化け屋敷よりも、海斗と手を繋いでいることにドキドキしていた。

そしてお化け屋敷を無事に出た二人は、食べ物を買うためにグラウンドへと向かった。


「海斗先輩、何食べます?」

「雫が食べたいものを選べ。俺はそれに合わせる。」

「っ!ありがとうございます!」


結局二人は、かき氷と焼きそば、たこ焼きを買った。

二人が黙々と食べていると、グラウンドに設置されたステージで何かが始まろうとしていた。

雫が待ち望んでいた暴露大会である。


「文化祭に来てくださった皆さん!ご来場、ありがとうございます!今から暴露大会を始めたいと思います!ルールは簡単!どなたでも構いませんので挙手していただきます!選ばれた方はステージ上に上がっていただき、なんでもいいので暴露していただきます!では早速、何か暴露したい方はいらっしゃいますか!?」


雫はすぐに手を挙げた。


「はい!そこのあなた!ステージ上に上がって来てください!」


司会者が雫を当てる。

そんな雫を見て海斗は驚き、戸惑った。


「雫、何を暴露するんだ?」


海斗が雫に問いかける。


「海斗先輩!ちゃんと聞いててくださいね!」


雫は海斗の質問には答えず、ステージに上がる。

「ありがとうございます!早速ですが、あなたはどんな暴露をしてくれるのでしょうか?大勢の人が集まっていますが!」


グラウンドには三百人ほどの人がいた。


「暴露、してもいいですか?」


雫が司会者に問う。


「お!もちろんです!皆さん、お静かに!では、どうぞ!」


司会者の合図が聞こえ、雫は意を決して話し始めた。


「僕は海斗先輩に言いたいことがあります!」


海斗はまた何かしてしまっていたのかと冷や汗をかく。


「海斗先輩!あなたに出会ったとき、一目惚れしました!良かったら僕と!付き合ってください!!」


雫が大声で言い切り、頭を下げると、周囲が静寂に包まれた。

雫は失敗したかな…。と考え、落ち込んでいる。

そんな中、ステージに上がっていく青年の姿があった。

雫が青年に気づく。


「か、海斗先輩…。」


司会者、そして観客は二人の様子を静かに見守っている。


「俺はまだ、雫を好きになれてはいない。」


雫は、やっぱり無理か…と思い、忘れてくださいと言葉を続けようとした。

しかし、雫が言葉を発する前に、海斗が話し始める。


「だから雫。俺と付き合って、俺のことを惚れさせてみろ。期間は、お前が俺に飽きるまで。何をしても良い。俺が惚れたらお前の勝ちだ。とりあえず、これからは恋人としてよろしく頼む!」


海斗も大声で言い切った。


「う、嬉しいです〜!こちらこそ、よろしくお願いします!海斗先輩!!」


海斗と雫が抱きしめ合う。司会者と観客から拍手が沸き起こった。


「海斗先輩。」

「恋人なんだろ?先輩はいらない。」

「じゃあ、海斗くん。」

「なんだ?」

「キス、しても良いですか?」

「ああ。別にいいが…どこに…んむ!」


海斗が話し終わる前に、雫は海斗の唇にキスをする。

司会者と観客は一瞬の出来事に呆然としていたが、すぐにお祝いの言葉を二人に贈った。


「あの子、意外とやる子なのね!」

「幸せになれよ〜!」


お祝いの言葉を聞いた雫は笑顔で宣言した。


「もちろんです!」

「俺のこと、幸せにしろよ?」

「はい!絶対、幸せにします!!」


そして後々、この時の文化祭は公開告白が成功した文化祭として学校の伝説になり、文化祭で告白すれば成功するという噂まで出るようになったのだった。


 文化祭から約三ヶ月後、いまだに雫と海斗のこと、特に雫のことをよく思わない者がいる。

そして雫は、クラスメイトの女子に『今日の放課後、体育館裏に来て。』と呼び出されていた。

 放課後になり、雫が体育館裏に行くと、そこには約三十人の女子がいて、雫を睨んでいる。

雫はすぐに海斗のことであると気づき、下手に刺激しない方がいいと思い、黙っていた。

雫が黙っていることにイラついたのか、女子たちは口々に雫へ悪口を言う。


「なんであんたみたいな男が海斗様の恋人になるのよ!」

「ふざけんじゃないわよ!」

「さっさと別れなさいよ!」

「海斗様もなんでこんな、ましてや男を選ぶなんて…。見る目ないわね。」

「っ!…おい。」

「っ!?」


雫からの圧に、女子たちの顔が引き攣る。

雫は言葉を続けた。


「僕のことなら何を言っても構わない。…だけど、海斗くんのことを悪く言うなら…絶対に許さない。」


女子に向けた雫の目は、瞳孔が開いていた。

そして雫は続ける。


「それに、あなたたちが僕に何を言っても無駄ですよ。僕、海斗くんと別れるつもりはこれっぽっちもないんで。きっと、海斗くんも同じですよ。ですよね?海斗くん。」


雫が背後の壁に向かって話しかける。


「ははっ!バレてたか。」


女子たちがきゃー!と騒ぎ始める。

しかし、そんな女子たちに向ける海斗の目は冷ややかだった。


「で?雫の悪口言ってんのって、こいつら?」


女子たちの顔が一気に青ざめる。


「俺の雫を傷つけようとすんなら…女の子だとしても容赦しねえぞ?」


海斗が雫を抱き寄せたため、雫の頬が真っ赤になった。

海斗の言葉と行動を見た女子たちの顔がさらに青ざめる。


「それと、俺も雫と別れる予定なんて、これからどれだけ経っても絶対にねえから。分かったら失せろ。二度と俺と雫に近づくな。次、雫の悪口言ったら…生きてるのが辛いって思うほど苦しめてやるから。それが嫌だったらさっさと消えろ。」


女子たちは海斗と雫の圧に負け、何も言い返せず、急いで体育館裏から離れていった。


「海斗くん!ありがとうございました!」

「別に感謝されるほどのもんでもねえだろ。誰だって、大好きな恋人が悪口言われてたら言い返すだろ…。」


海斗の声がだんだんと小さくなっていく。

雫は、ツンデレな海斗の珍しいデレの部分を見ることができて、幸せのあまり微笑んだ。

それを見た海斗は恥ずかしくなり、大声を出した。


「何笑ってんだ!」

「ふふっ!海斗くんの珍しい一面を見れて幸せなんですよっ!」

「ったく!可愛いな!お前は!」


雫は、珍しく素直に褒めてくれる海斗に驚いた。


「何だよ…。」

「いや、たまには可愛いって褒められるのも良いなと思って!」


雫はにっこりと笑う。


「さっき雫が、俺も別れるつもりないってことを分かってくれてるのが伝わってきて…嬉しかった。ありがとな。」

「っ〜!今日はほんとに素直なんですね!ツンツンしててかっこいい海斗くんも大好きですけど、素直で可愛い海斗くんも同じくらい大好きです!これからも末永くよろしくお願いします!」


雫が頭を下げる。

その行動に驚いた海斗だったが、すぐに頭を切り替える。


「俺の将来の夢、今できた。」

「何になりたいんですか?」


雫が海斗に問いかける。


「今、この国じゃ同性婚ってできないだろ?俺がこの国のリーダーになって法律を変えてやる。それが今できた俺の夢。どうだ?良い夢だろ。」

「それって…僕たちのためですか?」

「当たり前だろう。」


雫は、自分たちのために法律までも変えるという恋人の心意気と、そんなかっこいい恋人を持てたことに喜びを感じた。


「海斗くんみたいなかっこいい恋人を持てて、僕は幸せ者ですね!」

「ふっ!これで満足するな。絶対にお前と結婚してみせる。それまで待っていてくれるか?」

「もちろん!いつまでも待ってます!」

「そうか。できるだけ早くするよ。」


二人は見つめ合い、海斗は手を雫の首に添えて熱い口づけを交わした。


 数年後、海斗は宣言通り、国のリーダーになり法律を変えたため、同性婚ができるようになった。


「ほんとにやっちゃうなんて…。海斗くんはすごいですね!」

「…そうか。」

「それでなんですけど、海斗くん。僕と…結婚してください!」


雫が跪いて、海斗に指輪を見せる。

海斗は驚いた後、悔しそうに顔を歪めた。


「…俺が言おうと思ってたのに。」

「いや、やっぱりプロポーズは告白した方からかなって思ったんで!それで返事は…?」

「よろしくお願いしますに決まっているだろう!」

「や、やった!」


海斗の言葉は怒っているように聞こえたが、顔は笑っていた。


「これからもずっと、よろしくお願いします!」 「逃げたくなっても逃さねえからな。」

「望むところです!」


二人の青年の未来はキラキラと輝いていた。

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