第2話
目が覚めるといつもの私室。
必要最低限の物だけ揃えられた部屋の中にある大きなベットの上でぼーっとするのは毎朝のこと。
今世での自分は筋肉質で普通の人よりは大きな身体だと自覚はある。
魔物のクマイラと並んでもそうそう変わらない大きさだとは思う。
前世でも小さくはなかったけどそれは女性にしては、だ。アレクと並ぶと程よい身長差で—…
—コンコン
「…どうぞー」
「ティーダ様、起きておられましたか」
朝のご支度をさせていただきます。
と、入ってきたのはメイドたち。
「いつもありがとう」
「い、いえ!ティーダ様のお世話をさせていただけるなんて光栄です…!」
大柄な自分の服を着替えさせるだけでも大変だろうなとお礼を言えば、耳まで真っ赤になる彼女たちに自分の顔の良さを思い出した。
父親譲りの銀の髪に、母親譲りの顔は美形の部類に入るだろう。きっと前世の自分もこの顔に見つめられたら真っ赤になっていたと思う。
—いや、愛しているのはアレクだけだけれど。
照れながらも早々に支度を終えてくれたメイドたちに感心しつつ足早に食堂へと足を運んだ。
食堂にはすでに父と母、妹が揃っている。
「珍しく遅かったですね、兄さま」
「兄さまが来なくて寂しかったのかー?」
「そ、そういう意味ではありません!」
「ははっ、まあまあ!冗談だよ」
妹のエリスは15歳。
反抗期ではあるもののそこまで仲が悪いわけではない。
むしろ家族仲は良好だ。
「ティーダ、あまりエリスを揶揄わないでくださいね」
母は侯爵家の出で皇室騎士団団長である父と恋愛結婚した。気品漂う立ち居振る舞いは貴族の令嬢そのもの。
「早く座りなさい。朝の大切な家族の時間が無くなってしまうよ」
父は元々、平民の出ではあるものの実力で今の地位を築いた。20年前の南部戦争で功績をあげて伯爵の爵位を賜り、皇室の騎士団長となった。銀色の悪魔騎士といわれて騎士界隈では色々な武勇伝があるらしい。
普段の優男のような見た目からは全く想像がつかないが、騎士団での父を見ているとたしかに嘘ではなさそうだ。
「そういえば、ティーダ。先日入団した彼とはうまくやっているかい?」
何口目かのスープをすくったところで、父がそう声をかけてきた。
彼、に当てはまる人物は1人だけ。
先日、時期はずれに騎士団に入団してきたアレクシスという男爵家の三男だ。なぜこんな時期に。とか、元夫と同じ名前だ。とか思うことはたくさんあるけれど、なんにせよ彼とは良い同僚になりそうだということだけ答えられる。
子どもの頃から剣術は習っていたそうで、基礎も体力も他の団員よりあるし、あの父に子どものころからしごかれていた自分に付いてこられるのは騎士団の中でも数人とアレクシスだけだ。
「俺から教えることはないくらい優秀ですよー。本当にどうやってあんな逸材を見つけてきたのか…」
「そうか、そうか。うまくやっているようで安心したよ」
ブツブツと嫉妬まじりに褒める俺の言葉に、父は嬉しそうにしていた。
たかが一団員をなぜそんなにも気にかけるのかは少し引っかかったけれど、あまり気にしないようにした。きっとロクな理由じゃないから見ないふりをしたといってもいい。
けれど、ちゃんとそれを気にしておくべきだったと気づいたときにはもう手遅れだった。
「一旦訓練終了!少し休憩する!」
俺が率いる第一騎士団。
少数精鋭ではあるが、実力は確かな者たちばかりだ。
「アレクシス」
「ティーダ隊長?」
実力はあっても父直伝の訓練はやはり厳しいらしく、疲れきっている団員をよそに少し汗をかいただけのアレクシスに声をかけた。
「訓練のあと、ちょっと付き合ってくれないか?」
「いいですよ」
今朝の父の話もあって、仲良くしておいた方がいいのなら親睦を深めることも兼ねて、もうすぐ誕生日を迎える妹のエリスへのプレゼントを一緒に選んでもらおうと思い切って誘ってみた。
あまり他人と関わるタイプではないように見えたけれど、アレクシスは意外にも二つ返事で了承してくれた。
キラキラと太陽に反射する彼の金の髪と汗が眩しい。
前世妻でしたが、今世はあなたの親友を貫きます。 藤宮アヤ @RinAmi22
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