前世妻でしたが、今世はあなたの親友を貫きます。
藤宮アヤ
第1話
「—なぜだヴェリア…!」
キラキラと朝日に輝くはずの白に近い金の髪は、私から噴き出た血と降り始めた雨で薄い赤色に染まっている。
ああ、それも綺麗だな—そのまま私の血に染めてしまいたい。
きれいな赤色に染まっている髪を、抱き抱えられているその胸の中から眺めてそう思った。
抱えているのは私を憎んでいるはずの夫、今しがた彼に飛んできた刃物から庇ったためそのまま腕の中に倒れ込んでしまった。
私なんかを抱き止めるなんて嫌なはずなのにごめんなさい。でももう、からだがいうことをきかないんです。
隠れていた護衛の騎士が刃物を投げた犯人を始末するのを見届けて、最期かもしれない夫の顔を静かに眺めた。
夫、アレクはこのユリク帝国の皇帝だった。
アレクとは政略結婚だった。
皇太子だったアレクの立場を確固たるものにするため、帝国でも一番の力をもつ私の生家に縁談の話がもちかけられたのだ。
皇帝になるため、アレクは仕方なく私と結婚した。本当は伯爵家のリサリー嬢と結婚したかったのだと思う。
とても仲睦まじいお二人だったと城に入った頃にメイドから聞かされた。
けれどたとえ政略結婚でも、私は嬉しかった。
だって、私はずっと彼のことが好きだったから。
「…わ、たくし、は、」
「早く手当を!急ぐぞ…ッ!」
—ああ、どうしてそんなに泣きそうな顔をしてくださるの?
まるで私のことを悲しんでくれているように見えるわ。
アレクは急いで私を抱えたまま馬にまたがって走る。
雨の音と馬の蹄の音できっと聞こえないけれど、どうしても、一度だけでも彼に伝えたかった。
「あい、してる」
なんて呆気ない最期なんだろう。
けれど最愛の人の腕の中で逝けるなんて、なんて幸せなんだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます