第四章 奸計と慮外 ー1(1)ー
「ふぁぁああああ……」
回廊を歩く
(次、なんの授業だっけ……)
凛心は、記憶を
(座学なら、ちょっとは写本の作業ができるかなぁ……)
壁一面に呪符の見本が貼られた広い教室の中に、大小様々な法器がずらりと並んでいる。剣、楽器、指輪など種類も豊富で、その数ざっと百はくだらない。しかも、そのほとんどは、凛心が書物でしか見たことがないような、珍しいものばかりだった。
(うひゃー……さすが金持ち学校……)
父である
「さて、諸君。そろそろ始めましょうか」
後ろ手を組んだ三十代前半の
「法術を修めるなら、法器を熟知し、自在に操れてこそ、格上の術を使えるようになるものです。本日は、
雲弦が頭を下げると、教室の前に立っていた初老の男性が礼を返す。灰色の髪と眉、柔和に
「授業を始める前に、法器についておさらいしておきましょう。誰か、説明ができるものはいませんか?」
雲弦が銀縁眼鏡を押し上げながらそう言った。凛心は手を挙げた。
「
「法器とは、
「特殊な力とは、具体的にどんなものを指しますか」
「多くの法器は武器としての能力を有し、霊力で自在に動かしたり、一般的な武具以上の攻撃能力を発揮することができます。武器としての用途の他にも、防御、治癒、物体や生物の制御といった力を持った法器が存在します」
「法器の種類には、どんなものがありますか」
「剣・弓・筆・楽器・扇子・
「それでは、法器を使いこなすには、どうしたらいいかわかりますか」
「法器は、それを用いる術士の霊力に依存します。どんなに強力な法器を持っていても、扱う術士の霊力が低ければ、その効果を最大限に発揮することはできません。修練を積み、より多くの霊力を生み出せるようになることが、法器を使いこなすことにつながると考えます」
「間違ってはいませんね。しかし、答えとしては不十分です」
雲弦は、後ろで組んだ手を組み直しながらそう言った。
「法器を扱うのに必要な霊力は、身・心・技によって強化されます。しかしながら、特に大きな影響を与えるのは、扱う者の心です。強き心を持つことは、己の霊力を増幅させること、ひいては自身の法器の力を増大させることに繋がります。だからこそ、術士である皆さんには、己を信じ、困難に打ち
感銘を受けたようにうなずく生徒たちに、沈雲弦は満足そうな表情をした。
「では、これから、法器の名前・特徴などを書いた目録を渡します。それを元に、実際の法器をしっかり観察し、向学に努めてください。法器によっては非常に霊力に敏感なものもあり、扱いを誤ると暴発してしまう物もありますから、十分に気をつけてくださいね」
生徒たちはそれぞれに感想を言い合いながら、広い教室内に散っていった。凛心も他の生徒たちに続いて、雲弦から目録を受け取り、早速目当ての法器を手に取ろうとした。ふと視線を感じて振り向くと、梁宸が凛心の腰のあたりをじっと見つめているのが目に入った。
「あの……なんでしょうか」
凛心は梁宸に尋ねた。
「随分と面白い法器を持っているね」
梁宸が言った。
「
「かつて術士として活躍していた父上からいただきました」
「へぇ、君のお父上は、かなりの法術の使い手だったようだね」
梁宸は納得がいったようにうなずいた。
「して、お父上はその法器のことをちゃんと説明してくれたのかな?」
「ええ、思念を具現化する法器であると。しかし、誰かを
「へぇ。なるほど、お父上は、礼節をわきまえた人間であるようだね。しかし、君に本当にその盤古筆を使う資格があるのかな?」
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