第三章 受難の日々 ー6(2)ー
──暗闇の中で、夢を見た。
夢の中で、凛心は
なんの装飾品も無い粗末な部屋に、壁を覆う大量の書物。
父に剣術を指導してもらった中庭も、たった一つの
『凛心』
懐かしい父の声が聞こえる。贖山庵の居間と書斎を
『父上、会いたかった』
凛心は、父をきつく抱きしめた。
しかし、父は凛心を抱き返してはくれない。
『父上、どうして──』
凛心が悲しげに問いかけようとした時、けたたましい馬のいななきが闇を引き裂いた。ぐにゃりと床が歪んで、さらに贖山庵全体が歪み始める。
足元をふらつかせて倒れ込んだ父がゆっくりと顔をあげた。優しかった父の顔は、今は不気味な
『父上──!』
凛心は思わずその手を握ろうとしたが、届かなかった。
『父上! 贖山庵は、必ずおれが守るから……!』
凛心は父に向かってあらんかぎりの声を張り上げた。髑髏となった父は、歪みながら奈落へと落ちていく。
『父上、待って!』
行かないで、と必死に手を伸ばしたところ、何かひんやりしたものに触れた。ぎゅっと握りしめてそれにすがりつくと、少し心が和らいだ気がした。
「……心……! おい、凛心!!!」
首がもげそうなほど激しく揺り起こされて、凛心はくっついたまま離れようとしない
「うっ……」
凛心の視界に、焔嵐の
「嵐兄……?」
凛心は訳がわからないと言った様子で師兄の顔を見つめた。
「お前、昨日の夜、何があったんだ? 何度声をかけても反応がないから、死んだのかと思って肝を冷やしたぞ」
寝台の側に立つ焔嵐の顔は、心なしか青ざめていた。凛心はまだ睡眠薬でふらふらする頭を抱えて起き上がる。幸運にも、寝台には無事に戻ってこれたようだ。
(あれ……?)
自分が寝ていたところの隣に、夜具の乱れがある。触ってみると、まだ
「嵐兄、おれが起きないのにかこつけて、添い寝とかしなかったよな?」
凛心の言葉に、焔嵐が真っ赤に頬を染める。
「俺がそんなことするわけないだろう!」
「確かに嵐兄は挙動不審なところがあるけど、さすがに理由もなくそんなことしないよな……」
この香りも、嵐兄のものじゃないし……と、凛心は回らない頭をボリボリと
「お前、減らず口
「えっ……?」
その一言に、凛心は言葉を失った。外をみれば、太陽が高々と上がっている。
「
凛心は未完成の写本と授業の道具を肩掛け
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます