第二章 最悪の出会い ー2(1)ー
入学式典を一刻(約十五分)後に控えた大講堂「紫光殿」には、
祝いの句が掲げられた入り口を通って殿内に入った凛心は、崇高な大寺院を
自分が立つ入り口から、ゆうに十丈(一丈は三メートル)はある天井には、絢の歴史を
「こんにちは! 新入生の方ですか?」
明るい声で話しかけられて、凛心は振り返った。
「僕、
ペコリと身をかがめて挨拶をされ、凛心はつられるように両手を掲げて礼を返した。
「おれ、
女であることを気づかれないように、いつもよりも男らしい声色と言葉遣いを選びながら、凛心はそう言った。
「白虎組ですか。僕は
優毅が
「うわ、
「へへ、そう見えちゃいますけど、違いますよ。この子達は、
優毅は、くりくりとした丸い目を細めて、愛おしそうにオコジョたちを
「そういえば、碧
凛心の中指に嵌められた指輪をめざとく見つけながら、優毅が嬉しそうに質問する。
「おれ、どこの術家の人間でもないよ」
「えぇっ!? そうなんですか?」
「うん。そもそも金持ちでもないし。山奥の寂れた小屋で育った上、家族もいないから、この学院に生活費を給付してもらってるんだ」
「はぁ〜……まさか、そんな民衆以下の財力の方がこの学院にいらっしゃるとは……」
ほめてるのか、けなしてるのかわからない言葉遣いで、優毅が
凛心は、不愉快さを前面に出して眉をしかめた。
「でも、この学院って学費も無料で、生活費も支給してくれるようなところだろ? だったら、金持ちの子息だけじゃなくて、もっと、おれみたいな貧乏人がいるもんじゃないの?」
凛心が頭に浮かんだ疑問を口にすると、優毅は「うーん」と考え込み、社会の裏事情を知る人間特有の微妙な笑みを浮かべた。
「まぁ、確かに碧学子がおっしゃるように、学費は無料で、表向きには広く門戸が開かれていますけどね。この学院の超難関試験を通過するには、そもそもの法術の素養に加えて、小さい頃から英才教育をほどこしたり、高名な私塾に通わせるような財力が必要なんです。だから、結局は貴族の家柄の人間でないと、ここには入学できないんですよ。碧学子は、そういう意味で、変種みたいなものですね! 僕、貴族術家以外の方と口を利いたの、初めてです! よろしくお願いしますね!」
また無邪気に人の心をサクッと刺すような発言をしながら、優毅がひょこっとお辞儀をした。胸の前に掲げられた手首には、いかにも高そうな金の腕輪が光っている。
(おれ、こんな場違いなところで、やっていけんのかなぁ……)
十倍の依頼料と寝食無料という特典につられて、とんでもないところにきてしまったと、凛心は己の決断を後悔しかけた。
その時、講堂の前方中央に設けられた舞台の上の
舞台に
ふと、冰悧の隣に座っていた別の組の寮監生らしき生徒が冰悧に話しかけた。二人はなかなか懇意の関係らしく、そのまま会話を続けている。
「なぁ、趙冰悧と楽しくおしゃべりしてるあの酔狂なやつ、いったい誰だ?」
「ああ、あの方は
「虞瑞鳳殿下?」
耳慣れない敬称を聞いて、凛心は不思議そうに首を
「ええ。五大術家が絢統一を達成したのち、虞家が王家として全術家の頂点にたち、残りの四家が王家に仕える諸侯として、東西南北四方の統治をそれぞれ担当することになった歴史は、碧
優毅に促されて、凛心は壇上に座るその人物の姿に視線を移した。金色がかった長い髪の上半分を豪華な髪飾りで結い上げ、鼻につくほど自信に満ちた笑みを浮かべながら金扇をあおぐその生徒は、王子というより女たらしの遊び人と言った方が良さそうな感じがした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます