第22話 不良


「お?」

「......あっ」


西宮さんとの帰り道。駄菓子屋の前にたむろしている不良と目があった。


(やばぁ......こいつら、トイレの時に絡んできた)


「お?あん時のかわい子ちゃんじゃねえか」

「あらまあ、ホントだ」

「ん?彼氏は?」


「......」


か、彼氏?っていうかだめだ、喋れない!不良怖い!


「だ、大丈夫......?」


西宮さんが僕を気遣う。僕の中で恐怖と羞恥が混ざり合い、いっぱいいっぱいになる。


「すみません、急ぐのでこれで失礼します......」


そういって西宮さんは僕の手を引いてこの場から離脱をはかる。が、しかし。


「まってまって、ちょーっと待ちなよお嬢ちゃん」


立ち塞がる不良。


「な、なんですの?」

「あんた彼氏いる?」

「......は?あなた方には関係ありませんでしょう?失礼します」


かわして進もうとするが、不良は逃さない。再び僕と西宮さんの前に立ちはだかり歩みを止める。


「関係あるし!彼氏いねーんだったら、どうよ俺らと遊ばねえか」

「......あ、遊びませんわ。はやくどいて」

「ってことは彼氏はいねーのか。ふーん」


西宮さんに顔を近づける不良。その時、僕は繋いだ手に汗が滲み微かに震えていることに気がついた。僕の手がではない。西宮さんが震えているのだ。


「西宮 姫子ちゃん。モデルやってんだよな、あんた......」

「だ、だからなんです」

「まあまあ、ほらこっちきて一緒に駄菓子でもしばくべ?」


肩を組まれ、表情が歪む西宮さん。


その時、脳裏に教室での悲しそうな表情が過った。


(.....また、何もできないのか)


「ま、待って!」


気がつくと僕は二人の間に割って入り、不良を押しのけていた。


「お?どーしたかわい子ちゃん。なんで邪魔すんのよ」

「......あ、えっと......」

「ひ、星川さん......?」


顔を近づけてくる不良。めっちゃ怖い。脚ががくがく震えてる。おしっこ漏れそう。頭が真っ白になっていく、周囲の視線が痛い.....緊張で吐きそうだ。


って、なんで僕はそんな思いまでして......?


だって西宮さんは僕のこと男だって気がついてないんだぞ。そしてこれからも男としてみられることはない。リスクを負って助けてもリターンは何も無い。苦しむ価値や理由なんてないのに。


――でも。


そういうのじゃないのかもしれない。


『わたくしと......お友達になってはくれないかしら』


リターンだとか価値だとか、そうじゃなくて。


もっと大切ななにか。


「と、ともだち......なのでぇ」


しまらねえ!言い方キモっ!


「はあ?友達だからなんなん?関係ないっしょ」

「ぃ、いえ、あの、こ、困ってるから」

「困ってねえよ。な?西宮ちゃん」


また肩を組もうとする不良。だがそうはさせない。僕は不良の肩を両手でおさえガードする。なんかアメフトのスクラムみたいになってる。


「こ、困ります、ほんとにぃ.....!」

「なんだこのかわい子ちゃん体小せえのにすげえ力!ほんとに女かよ......!」


男ですぅ!


「あー、もうやめろやめろ。タカ」

「ぬう......!?」


タカと呼ばれた不良が僕から離れた。


「かわい子ちゃん、ダチの為にそこまで体張れるなんて......あんたマジで良い女だな」


男ですぅ!


「すまんかったな。もうあんたらにちょっかいはかけねえ」


お、おお.....トイレ前の一件でも思ったけど、この不良たち意外と聞き分けいいんよな。良かった、見逃してくれそうで。


「けど......ひとつだけ。かわい子ちゃん。あんたの名前を教えてくれよ」


え......?

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