第21話 墓場


「ふっ、ふふ。......ごめんなさい、笑ってしまって」

「あ、いや別に。大丈夫です」


僕はぶっとんだ上履きを回収し靴箱にいれた。西宮さんもまた帰るために下駄箱を開けた。すると中からいくつかの手紙が落ちてきた。

ひらひらと舞うそれは見た目的にラブレターだと判断できた。メールやライン、SNSがあふれるなかなんとも古風な。


僕の足元にもその溢れたひとつが。拾って西宮さんへと渡す。


「すみません、ありがとうございます」

「いえいえ。......すごい数のラブレターですね」

「ええ、まあ」

「けど、今どきラブレターって......」

「それはわたくしが携帯電話を持っていないからかもしれません」

「......え?」

「多くの人に連絡先を聞かれるんですが、いつも家の電話番号をお伝えしてます。しかし、それだと家族の誰に繋がるかわかりませんので、お手紙をくださってるんだと思います」

「あ......へえ、そーなんですね」


すげえな。携帯持ってないんか。そりゃ必然的にラブレターになるか。


「でもわたくしお手紙好きなので、こういうのは嬉しいです」


にこりと微笑む西宮さん。どきどきするぜえ。


「あの、それはそうと一緒に帰りませんか?星川さん」

「なっ!?」


い、いい、一緒に帰るっ!?


「あ、もしかして嫌ですか.....?」

「いえ!嬉しいです!」


うわあ、めっちゃ嬉しい。こんな距離の縮まり方ある?すげえ。人生なにがあるかわからんな、マジで。


二人並び歩く。しかし流石西宮さんだな。周囲の視線がすげえ。めっちゃ見られてるのがわかる。

まあ、でも当然といえば当然ではある。あの百年に一度の美貌と謳われる西宮 姫子だ。雑誌のモデルもしているらしいし、目立って当たり前の存在。


それに隣を歩いてて気がつく。立ち振舞、歩き方、ひとつひとつの所作が美しく品がある。

ただ見た目が美しだけじゃないことがわかる。


西宮(いつもより周囲からの視線がキツイ......やはり星川さんか。この方とはあんまり並んで歩きたくないですわね......しかし、新田くんとの関係性を聞くためには致し方ありませんわ。さて、まずは他愛のないお話しで距離を縮めさせてもらいましょうか......他愛のない話し、えーと。なんの話をすればいいんでしょう......普段あんまり人と会話しないからわかりませんわね)


「......あの、西宮さん」

「あ、はい?なんですか」

「西宮さんは普段なにしてるんですか」

「普段ですか......えっと、そーですわね。基本的に仕事があれば仕事をしてますわね」

「仕事って、モデルの仕事ですか」

「!、知ってらしたんですね。そうです、親がとってくるんですそういう撮影の仕事を」

「へえ、すごい!でも大変ですね、まだ高校生なのに」

「ふふっ、そんなことありませんわ。わたくしは楽しいですわよ。色んなお洋服を着せてもらえるので」

「あー、まあ西宮さんくらい綺麗な人なら何着ても似合うだろうし楽しいかもしれないですね」

「そ、そうですか?ありがとうございます......というか、星川さんだってすごくお綺麗じゃないですか。色んなお洋服が似合うと思いますわよ」


う、うーむ。お世辞だとしても、西宮さんに言われると嬉しいな。僕、男なんだけど。......っていうか西宮さん僕のこと男だって知ってるんだよね?


にこにこと笑い隣を歩く西宮さん。幸せだ。けど、嫌な予感がじわりじわりとそれを侵食し染め上げられている感じがするのは、なぁぜなぁぜ?


(......いや、大丈夫だろ。だって一応僕クラスメイトだぞ?流石に性別くらいは知ってて当然......)


「あの、西宮さん」

「?、はい」

「......僕の性別って知ってますか」


きょとんとする西宮さん。しかしすぐに朗らかな表情になり答えた。


「ふふふっ、なんですのそのクイズ。どうみても女性じゃないですか」


ああーっ!!マジかよ!!男として見られてなかったのか僕はあああ!!

いや、けどまてよ!?だとしてもいまからならまだ間に合うんじゃないか?男だと打ち明ければ......!


「それにもし星川さんが男性でしたら......」


男性でしたら......?


「それは、かなりショックですわね。ぶっ倒れて寝込みます」

「!?」


西宮(わたくしより綺麗な顔立ちの男性が存在するなんて、ホントキツイですわ。もし星川さんみたいな男性がいればショックで寝込むまでありますわね......いやガチで)


だ、だめだ......もう逃げられない!!僕が男だという事実は墓場まで持っていかなければ!!


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