第20話 嫌悪


び、びっくりしたぁ。あの西宮さんが急に連れションとか言うんだもん、マジで焦った。

西宮さんみたいな人でもあんな冗談いうんだな。なんだか親近感。いや僕はそんな変態的な冗談は言わないけど。


隣の賢人と澪がなんともいえない表情になってる。さすがに今の冗談はキツイか。西宮さんのことフォローした方が良いかな......いや、なんかそれは下心まるだしみたいでちょっと嫌だな。うーむ。


――放課後。結局、西宮さんにはなにもできずに時が過ぎた。


「はい、んじゃお前ら気をつけて帰れよ〜」


帰りのホームルームが終わり、クラスメイト達が散り散りに動き出す。帰宅するもの、部活動に勤しむもの。


「それじゃあ、秋人......また、あしたな」

「ああ、うん。賢人もサッカー部がんばって」

「.......ッ」


(......やっぱり)


今日の賢人の僕にたいする態度はおかしかった。いつもなら会話するとき真っ直ぐ顔を見て話をしてくれていたし、笑顔が多かった。けど、今日は違った。

目が合えば顔をそむけられるし、笑顔を見せることもなかった。というより、そもそも会話自体しにくそうであんまり話せなかった。


(昨日のアニメの話したかったのになぁ)


でもまあ、原因には心当たりがある。おそらく僕のこの格好、女装がそうさせているんだろう。確かに急にこんな格好して親友があらわれれば気が動転しても仕方はない。


賢人の気持ちはわかる。もしかしたら気持ち悪がられているのかもしれない。

けど、もう僕は引き返せない......平穏な日々を手にするためには、もうこれしかないのだと覚悟を決めている。


だから、僕は僕がこの格好をしている事が自然なことだと思えるように努力し続ける。もっと女性らしく擬態できるように。


(賢人が普通に話してくれるくらいになれるよう、僕......がんばるよ)


――ふと、目を逸らす賢人が過る。


胸の奥がぎゅっとしめつけられた。


......でも、それでも.....賢人が僕に嫌悪感をいだくようなら、僕は男に戻ろう。


「あの、星川さん......?」

「ん?」


ふと横をみれば西宮さんが僕の顔を覗き込んでいた。


「はわっ、な......なんですか」

「あ、いや、外靴を持ったまま神妙な顔をしてたから、大丈夫かなぁって」

「す、すみません、さっさと履きます!」


脱いだ上履きを下駄箱へ戻そうとする。が、しかし慌てていたせいか、それがすっぽ抜け真上へ舞い上がり、「ゴスッ」と僕の頭を直撃した。


「〜〜〜ッ!」


いってえ〜!もろ踵が脳天に!!


「.....ふっ、ふふ......」


ふとみれば西宮さんが口を手で覆い小さく笑いを堪えていた。無邪気なその笑みに苦しくなるような淡い痛みを胸に覚えた。


......ああ、やっぱり可愛いなこの人。

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