第19話 戦略
わたくし、西宮 姫子は困惑していた。その原因は単純明快、星川という女がわたくしの想い人である新田くんと連れションをしに行ったこと。
女子と男子が一緒に仲良くトイレへ行く。それだけでもわけがわからないのに、それをすんなり受け入れてしまう新田くんがより混乱する頭に拍車をかけているのです。わたくしには到底理解のできない、彼と彼女の感覚。迷宮入りです。ええ。
――ガラッ
「!」
ざわっ、ざわざわ。
新田くんと星川さんが連れションから戻ってきた。1Bの生徒達、全ての視線が二人に向けられている。
それはそうでしょう、女子と男子が二人でトイレをするだなんて前代未聞の......ってか、待ってなんか心做しか新田くん顔赤くありません?
心がざわめくのを感じる。
それに、どことなく......星川さんもよそよそしいような。え、ホントにトイレしてきただけですわよね?
嫌な予感を振り払うようにあたしは首を振った。
「......よく二人でトイレいけたわね」
佐藤さんが新田くんと星川さんに話しかけた。おお、その質問とても良いですわ!佐藤さんは普段新田くんに馴れ馴れしくてイラつくときもあるけど、今のは良い!グッジョブです!
「そりゃ行くでしょ。普通に......ね、賢人」
「あー、まあ、うん」
普通なの!?男子と女子が一緒にトイレ行くの、普通だったのですか!!
周囲を見渡す、がしかしそれに驚いたりする生徒は見当たらない。嘘だろオイ。
いや、しかし......もしかしたら、そうなのかもしれません。今どきはそれが普通なのでしょう......わたくしってこう見えてあんまり友達いないし、そういう話しを周りとしないからいつの間にか疎くなっていたのかもしれませんわ。
そう、そうね。今はそれが普通なのですね......そういう時代って事、なのね。
――で、あるならば、あたしも新田くんと連れションしたいです。
一緒にトイレ行きたい。何気なく星川さんのように、『トイレ行きましょうよ〜』とかって気さくに話しかけたいです!
――悪かった視界が晴れ、目の前に道が見える!
迷宮入りかと思われた事象はルートが可視化され、攻略できるようになりました。よし、あとは勇気......必要なのはこの先の新田くんというゴールへ歩みだす勇気だけです。
(が、しかし!)
やはりいきなり賢人くんに連れション申請をするのは難易度が高い。ならば――
「あー、トイレ行きたいですわぁ。そーだ、モブ男子くん」
「モブ男子!?ぼ、ぼくのこと?」
「間違えた、ごめんなさい。日村くんでしたわ」
日村(間違え方酷くない!?)
「な、なに?」
「あたしと連れションいきませんか?」
日村(――!?)
新田(――!?)
星川(――!?)
佐藤(――!?)
他1B(――!?)
――ならば......そう、他の男子とから始め、気軽に連れションするというイメージを新田くんに持ってもらうのです。そうすることで本丸の新田くんを誘う時の難易度を下げられる。
ほら、みてくださいまし新田くん。わたくしも男子と連れションを......ってなんでそんな引き攣った顔してるんです!?
待って待って、なにその顔初めてみるんですけどぉ!?
てかモブ男子も『マジかこいつ?』みたいな表情してる!ど、どーいうことだってばよ!
「悪いことは言わない、西宮さん」
「......へ?」
モブ男子、日村が真剣な表情であたしに言う。
「トイレに男子を誘うのはやめたほうがいいよ。あと連れションとか言わないほうがいい......可愛い西宮さんのイメージが悪くなる」
「.....え、あ、はい......すみません」
......え、え、なんで......だって、星川さんも......あ、あれぇ?
顔が熱くなっていくのを感じ、あたしは机に突っ伏した。
なんで、なんで!?意味わかんないんですけどおー!!
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