第16話 勝利


ホームルームの鐘がなり西宮さんが自分の席へ戻っていく。その際に僕に微笑みつつ手を振っていたのだが、ガチでこれ脈あるんじゃないのかとそう思わされる笑顔だった。


夢、じゃないよな?僕は自分の頬を引っ張ってみる。痛みがあり、これは現実なのだと理解する。


混み上げてくる幸福感、そしてそれに応じてこぼれてしまう笑い。横にいる澪がなぜか威嚇するかのように睨みつけてきているが、幸福度MAXの今の僕には些細な事であった。


「はいはい、みんなおはよーさん」


腑抜けたような声で入ってきた白衣の男。これがうちのクラス1年B組の担任、馬場 俊樹先生だ。

無精髭が生えていて目に生気が無いので老けて見えるが、年齢はまだ三十代前半である。


「あー、えー、あー......そんじゃぁ......足立」

「はい」


気だるさを一ミリも隠そうともせず先生は点呼を始めた。これほど立派なダメな大人の見本は他にはないんじゃないか。反面教師としては一級品まである。


「本木」

「はい!」

「牧野」

「はーい」

「星川」

「はい」


ふと先生と目が合う。


「......」

「?」


じーっとこちらを見たまま点呼が止まった。生気のないその瞳をじっとこちらも見返す。なんか逸らしたら負けかなって。


馬場(......あれ、まって。ウチのクラスにあんな女子いたっけ?つーかあそこって星川の席じゃ......あれ、もしかして星川なの?おいおい、星川って男じゃなかったか?なにこれ、二日酔い酷すぎて幻覚見てる系?)


「!!」


先生が目を細め僕をよりキツく睨みつける。な、なんだその圧力は!?僕は屈しないぞ!!汚い大人(身だしなみ)には僕は負けない!!


馬場(......星川なのか?ホントに?なんで女子生徒の制服着てんの?昨日まで男子の制服だったよね?......って、あーもうダメだ頭痛えのに考えんのキツイわ。あんまツッコまない方が良い気がする。面倒になりそうだし、ここはスルーしとこ.....)


「......あー、佐藤」

「え、は、はい」


1B生徒達(((え!?先生そこスルーするの!?)))


よっしゃあ!!僕の勝ちじゃい!!


むふーっ、と鼻から息を出す。前髪を切れ切れ迫ってきた奴に一矢報いてやったぜ。くく、なんとも気持ちの良いものだな。


澪(まじでか......秋人の女装を言及しないの?多分クラスの皆気になって仕方ないと思うんだけど)


馬場(ふぃ〜、触らぬ美女に祟り無しってな。ここはノータッチでフィニッシュです)


西宮(?、クラスの雰囲気が妙ですわね......?)


新田(秋人......この格好、既に先生には了承してもらっていたのか。ていうか秋人がなんかすごいニヤニヤしてるんだが......かわ)


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