第17話 尿意
ホームルームが終わり一限目の授業も終了。休み時間が訪れた。相変わらずとなりの澪から視線を感じるが、時間が経ったことによりその鋭さも薄れつつあった。
ていうかなんで睨まれてたんだ僕は。相変わらずわけわからんなこいつは。僕を見てる暇があるなら大好きな賢人でも眺めていればいいのに......時間は有限なんだぞ、澪くん。やれやれ。
(つーかトイレ行きたい)
席を立った。その時自分のスカートが目に入りふと気がつく。
あれ?これ、僕って男子トイレ使うの?それとも女子トイレ......?
想像してみよう。まず女子トイレへ入った場合。
......あ、ダメだ想像できない。でもこれだけはわかるおそらく僕は羞恥と緊張で用を足せない。
トイレが落ち着いてできないのは僕にとって死活問題だ。
それとこっちのが問題かもしれんけど、多分僕が男だとバレた時には警察に厄介になってしまうだろう。
そうなればどうなる?そう、今築き上げかけている平穏な日々は崩れ去り、西宮さんにも幻滅され人生が終了してしまう。
では、男子トイレへ入った場合。こちらはどうだろう?
――ガチャリ。
『うわああ!?なんで女子が!?』
『へ、へんたーい!!』
『......もうお婿にいけない』
一瞬で事件発生。じっちゃんの名にかけるまでもなく即お縄か。間違いなく女子トイレに入るよりもタイムを叩き出せるな......なにこの罪人RTA。嫌なんだけど。平穏な暮らしどころか僕もうこの町で暮らせなくなるんだが。
(......うーん、困った。まさかこんな問題が発生するとは)
「どうしたんだ秋人?さっきから突っ立ったままぼーっとして」
隣の席で賢人が僕を見上げている。目があったまま僕は思考する。
「な、なに、どうした......?」
「あ、いや......ちょっとお願いがあるんだけど、いい?」
そうだ、そうだよ!賢人に見張りしてもらえばいいんだ!僕が男子トイレへ入る時に誰かいないか確認してもらって、出る時も人がいないときに合図してもらえば......!これだ!
「あ、うん......いいよ」
「ありがとう!」
なんか渋い顔で目を逸らされたんだが?いいんだよね?
「よし、それじゃあ一緒にトイレ行こう!」
1B(((つ、連れションだとおおお!!?)))
「トイレ......あ、ああ、そっか。わかった」
――ざわめく教室。あるものは飲み物を噴き出し(西宮)あるものは顔を赤く染め、そしてまたあるものは恍惚の表情を浮かべていた。
二人が去った後、1Bの教室に妄想や憶測、変態的推察が飛び交う。
「え、まって新田くんと星川さんてどういう関係?」
「女子と連れションだと......意味わからん!」
「そもそも星川って女子なの?男なの?」
「どうみても女だろ、あれは......」
「でも昨日まで男子の制服きてたよな」
「あれで男とかまじでもうなにも信じれなくなる」
「つーか声が女じゃん!」
「あいつあんな声だっけ?新田とか佐藤とかとしかまともに会話しねえから記憶にねえ!」
「ぎゃくにあれじゃね?昨日まで男子のフリをしていた......とか?」
「なんのために!?」
「いやむしろ女装だとしてなんのために?」
「もうどっちでもいいや!可愛けりゃ良いよ!かわは正義」
「......俺、星川さん狙ってみようかな」
「馬鹿か!男かもしれないんだぞ!」
「それでも!あの美貌は諦めきれんッ!!」
「おまえ直接聞いてみろよ」
「やだよ!嫌われたくないし!」
「男だって証明されてしまえば夢が崩れてしまう......」
「いやむしろ僕は男の方が良いまである」
「はあ!?」
「男の娘ってやつか」
西宮(――新田くんが女子と連れション新田くんが女子と連れション新田くんが女子と連れション――!?)
「おい!やべえぞ!西宮さんが白目剥いてぶつぶつ言ってる!!」
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