第12話 開幕


「ご、ごちそうさまでした!」


アイスを食べ終わりファミレスの前。そう言って誠が頭を下げた。


「ああ、うん。誠はこれからどうする?」

「あ、えーっと......さっき姉さんから買い物終わったって連絡きてて。なので姉さんのとこにいきます」

「おお、そっか。了解。澪によろしく言っといてな」

「......え?あ、あの、姉さんと知り合いなんですか?」

「は?」


いや、そりゃそうでしょ。なんなんだ今日の誠は。マジで変だぞ。僕が不思議に思っていると妹が間に割り込んできた。


「あー......あーっ!ほら、お兄ちゃんラーメン屋さん早くいかないと。混んじゃうから」

「え?あ、そっか」


妹に背を押され急かされる僕。確かに夕食時に行くと人が多いからな。混んでる中で食事をするのは僕としてもなるべく避けたい。落ち着かないし。


「てなわけで、誠くんバイバーイ。また明日学校でね〜」

「あ、うん......」


誠(――はっ、名前!名前を聞いとかないと!!)


ぽん、と僕は誠の頭に手を乗せなでなでと撫でる。実のところ弟が欲しくてたまらなかった僕はこうしてつい誠を弟のように扱ってしまう。


「じゃあね、誠」


誠(あ、ああああ......す、好きだぁ!好きすぎるぅ!!)


何故かとろんとした目で恍惚の表情をしている誠。謎の悪寒が全身を駆け巡る。


(なんかぞわぞわする......!?)


「はい、ほらほら!お兄ちゃん行くよー」


姉も誠に手を振り別れの挨拶をしていたが、それも見えてはいない感じで、誠は放心状態で立ち尽くしていた。

ぐいぐいと妹に背中を押されショッピングモールを出る。


「なあ、誠のやつ今日妙に変じゃなかったか?大丈夫かな......?」

「大丈夫でしょ。あんた的には大丈夫じゃないだろうけどね」

「どういう意味だ、姉」


「ふふっ、擬態成功ってことだよ。弟」

「なに!?マジでか!よっしゃー!!」


茜(あー、いやマジでこれは面白くなりそうだねぇ)

緋鞠(いやはや、ホント良質な玩具が手に入りましたなぁ♪)


茜、緋鞠((さて、あとは明日学校に行ってどう転ぶか、か))


――


〜翌日〜


「ほら、動かない!」

「うぬぅ」


朝、朝食を終えた後、僕は姉の部屋で化粧を施して貰っていた。


「うぬぅ、じゃない。そんなリアクションしたらソッコーで変に思われるからね」

「は、はい......や、でもくすぐったくて」

「我慢しなよ」

「う、うっす」

「うっすじゃないでしょ!」

「......はい」


化粧が終わり制服の着付け。女子生徒の夏服を着て、スカートをはく。


「丈、短くないか?」

「いやいや、これくらい普通でしょ」


膝より遥か上なんだけど、これ普通なの?パンツ見えるくないか?いや僕はスパッツはくからいいけどさ、女子生徒達は恥ずかしくないんか......?


「はい、完成。鏡みてごらん」

「!」


姉の部屋にある全身が映る大きな鏡。そこにいた僕は今までの男子高生の面影はなく、一人の美少女が映し出されていた。


ふわふとしたショートボブ。前髪は切り揃えられ、特徴的な眉がのぞく。長い睫毛と大きな瞳。ふっくらとした唇には薄い紅がのり、なんというかもうマジで僕が僕じゃない感じだった。


「うん、今日も見た目は完全に女子だ。完璧」

「......ああ、うん。そうだな」

「ちゃんと擬態しきれるか、あとはあんた次第。頑張ってきな」


あとは僕次第。どれだけ女子として周囲に溶け込めるか。


「姉」

「ん?」

「仕事前に、忙しいのにありがと。僕、頑張ってくるよ」


「......おう。気をつけて行ってきな」


夏穂(ストーカーとか作らないように)


通学用のリュックを背負い、玄関へ。靴をはき、扉を開く。

雲一つ無い青空が広がる中、僕は歩き出す。


――こうして、僕の新しい学生生活が幕を開けた。


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