第5話 視線


家から歩いて三十分程のショッピングモールへ到着。今日が日曜だからか、外が暑いからか、理由は知らないけど店内には結構な人がいた。


「お兄ちゃん」

「ん?」

「なんだか、いろんな人にジロジロみられてる気がするんだけど」

「......ああ、やっぱり。僕の気の所為じゃなかったか」


あの頃のように突き刺さるような視線。この懐かしくも嫌な不快感。これは明らかに僕に向けられた目だ。


だがおかしい。今の僕はあの頃とは違う。化粧もしてるし服装も女子の制服.....奇異の目で見られる要素なんてどこにもないはず。


なぜ......せっかく平穏な生活を手に入れられたかと思っていたのに。


この視線は今まで受けた中でもかなり強烈なものだった。


「お兄ちゃん、大丈夫?」

「ああ......だが、作戦は失敗したようだ」

「作戦?」

「ほら、この格好。女装で女子に擬態して注目度を減退させ、平穏な日々を送るっていう......」

「格好?」


きょとんとした妹。僕の顔から足まで不思議そうな目でみる。


「わあぁ!?お兄ちゃんがお姉ちゃんになってる!?すごーい!!」


いや今気付いたの!?馬鹿かよ!!


「めっちゃ可愛いんだけど!ねね、動画撮ってテックトックとかPwitterにあげていい!?」

「馬鹿なの!?だめに決まってんじゃん!?」

「いやいやいや、この可愛さは軽く万バズいくって!」

「いやいやいや、僕平穏な日々を送りたいんだって!」


「あのさぁ、あんたら」


スマホを構え僕を撮ろうとする妹。それをかわし逃げ回る僕。二人くるくる姉の周りを周回していると、二人同時に肩を掴まれた。


「余計目立つからやめろ」


そらそーだ。


「とりあえずレストランでも入るよ。アイスとラーメン食うんでしょ」

「いや、まってくれ姉」

「ん?」

「これはちょっと、ヤバいだろ。女子に擬態する練習に来てるのにこの注目度は......」

「え、だから練習して女子に見えるようにしに来てるんだろ?」

「いや、けど......練習でどうにかなるレベルでは」

「おいおいおい、じゃあアイスとラーメンどうすんだよ」


食い物第一!なんというクソ姉!


「あー、でもさ多分あれじゃない?」

「?」

「お兄ちゃんが目立ってるのって学校の制服を着てるからっていうのもあるのかもかも?」

「!」


それなんて鴨葱!しかし、そうか妹のいう事は一理ある......今日は日曜日。普通、学生服で出歩く生徒はいない!だから注目されていた......なるほど!であればこの突き刺さるような視線にも納得がいく!!


「だからさ、何か服買いに行こうよ!」


――姉は思った。注目されてるのはそこじゃなくてシンプルに弟が可愛いからなんだけど。でも面白いからいいぞもっとやれ。と。


(......あと最低でもアイスとラーメンは奢らせたい)


――妹は思った。まあ、注目されてるのは制服のせいじゃなくてお兄ちゃんが可愛すぎるからなんだろうけどね〜。休日でも制服で出歩くことはあるだろーし。注目されてる原因そこじゃないんだよねぇ。ま、でもこれでお兄ちゃんで遊べる!やったね!


(最高の着せ替え人形ゲットだぜ。へへっ)



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