第3話 擬態


「はい、完成!」

「......おお」


そう言われ目を開けるとそこには美少女がいた。


「いやあー、我ながら完璧!これならアイドル事務所に入れるわね!間違いなくどこのグループでもセンター張れるわ!」

「た、確かに」


これは認めざる得ない。そう思えてしまうほどの説得力がそこにはあった。


ミディアムボブの髪型。前髪がパッツンで、妙に眉が出てしまっているが、何故か可愛らしく見える。

ほんのり乗った頬の明るい色味、と口紅。嫌でたまらなかった長い睫毛も女の子としてみればここまで映える物だとは思っていなかった。


さらに僕が今着ているこの女子生徒の制服(姉が昔着ていたウチの学校の制服)。髪型、化粧、服装、もうどこからどうみても僕を男だと思う人間はいないだろう。完璧な女子生徒の擬態だ。


......いや、まてよ?ひとつ違和感のある部分があるな?


「姉、ありがとう。これならもう僕を男だと思うやつはいなくなる......やっと平穏な日々がおくれる」

「ふふっ、いいって事よ(いや平穏な日々は送れないとは思うけど)」

「ただ、ひとつ。これはなんとかならないのか?」


僕は自分の胸に指をさす。男なので当然だが、ぺたんこでまっさらな胸。これ、このままじゃ......どうにか胸を作りたい。


「いやいやいや、それでいいわよ。私だって胸そんな大きくないし。目立たなくても大丈夫でしょ」

「えー。でももっと完璧にしたいんだけど。姉は性格も男っぽいし気性も荒くて女としてみられないから気にしなくていいかもしれないけど、僕は――ごふっ!?」


姉の拳が脇腹に突き刺さる。


「え?なんか言った?」

「す、すみません、なんでもないです......」

「次そんな口きいたらもう化粧もなにもしてやらないからね?」


――この時、姉は思っていた。女性として完璧なビジュアルの弟。そこでただ一つ微かに優っている胸まで負けしまうような事があれば女として流石にもう立ち直れない、と。


「ご、ごめん。それは困る......わかった」

「うんうん、いい子」

「それじゃあ明日また学校行く前に頼むよ」

「おーけー」


ああ、清々しい。まるで溜まっていた夏休みの宿題が片付いた時のような。嫌で嫌でたまらないクラスの発表会が終わった時のような、大きな悩みが解消された清々しさ。


(......はっ!いやまてよ!?)


「姉」

「ん?」

「姉は、僕がこの格好で学校に行ったとして上手く生活できるとホントに思うか......?」

「!!」


――姉は思った。やべえ、もう気がついてしまったのか!?と。そう、例え女子に紛れ擬態したとしてもこの美少女ぶりではより注目され平穏な生活など決して送ることはできない。ここまでそんなことにも気が付かない馬鹿で愚かな弟だと、そう思っていたのに......だが、しかし私が思うよりも弟は馬鹿ではなく、ついにそこに気が付いてしまった。


「......女としての振る舞い、擬態するならそこらへんの演技もできるようにならないとバレるよな?よっしゃ今からこれで出かけてくるわ!」


――姉は思った。良かった普通に馬鹿だったわ。と。


「うん、行ってらっしゃい!」


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