第2話 思考
僕は部屋に戻りPCをつけた。目的は一つ、化粧の仕方を調べるためである。今は良い時代だ。WouTubeなどの動画サイトでなんでも調べられる。
(......ふーん、なるほど?)
適当に検索した化粧動画をみてみる。すると意外と簡単そうにみえた。これなら僕にもできそうかもな。やってみるか。あとは化粧品をどうするか、か。
(妹の部屋......は今は行きづらいな。姉の部屋に行ってあいつのをこっそり使わせてもらおう)
部屋を出て姉の部屋へ。僕、妹、姉の部屋は2階にあり、左からその順に並ぶ。
ガチャリとドアノブを回し部屋へ入る。
突き当りにある化粧台。僕はそこへと座り、そこにあった姉の髪留めで前髪を上げ留める。そして大きな鏡に映る自分の顔を眺めた。
(......みればみるほど、あれだなぁ)
気に入らない、あまり見ないようにしていた自分の顔。久しぶりにみた僕は忌々しいくらい可愛らしい。自分でいうのもなんだが、男の姿でこれは目を引いてしまうのも理解できる。紛れた異物のような違和感。
大きくくりくりした目も、ふっくらした厚い唇も。
「......そして、この中性的で高い声も」
全てが忌々しい。
けど、この顔も体格も時間が経てば段々男らしく成長してくるのかな。そのうち声変わりもするだろうし......いつかは普通の男に、なれる日が来るのか?
はあ、とため息を一つ吐き化粧道具を物色し始める。えーと、先ずは......なんだっけ。スマホで動画見ながらやるか。
――バンッ!!
「おいてめえ!!」
「!?」
開け放たれた扉の音。そして鏡越しに見えた姉の鬼の形相。
姉!?やべえ!!帰ってきたのか!?
「ちょ、待って!これは――」
「いいや待たない!」
スパーン!!と頭を平手でぶたれ椅子から転げ落ちる。
「廊下で泣いてた妹もお前の仕業だろ!少し目を離せばすぐこれだ!つーか私の部屋で何してんだよ!」
「あ、いや......それは、その」
マジかよ!くそ、こんなに早く帰ってくるとは思ってなかったんだけど!!
「!」
化粧の練習をしていただなんて言えるはずもなく、言い訳ができずに固まっている僕。すると姉は化粧台に散らかる化粧品に目をやった。
「?......え、なにこれ。私の化粧道具なんで散らかってるの」
「あ、いえ、それはその」
「あんたまさか化粧しようとしてたの?」
「......は、はい」
「え、なんで?」
「それは、その......学校の先生に髪を切れって言われて。切ったらまた顔のことで昔みたいにイジられそうだと思ったから、いっそ完全に女子に擬態してみようかなって......そしたらイジられないだろ、多分」
「......!?」
――このとき姉は思った。
いや、何言ってるんだこいつは?と。
(何をどうしたらそういう解決策になるんだ?)
なんという逆転の発想。普通の思考回路であれば辿り着くことのない極地極論。
だが、好都合かもしれない......こいつは男でありながら我が三姉弟でも一番の容姿が良くポテンシャルがあった。
そうだ、私は前々からこいつを女装させてみたいと思っていたんだ。
だがおそらく一度女装姿で学校へいけば前よりも注目され一歩間違えれば前よりも強烈なトラウマを植え付けられてしまうかもしれない。
だって普通に考えたらわかるよね?男だと思っていた髪型貞子状態の男子が突如美少女になって目の前に現れたら、そりゃ羨望やら奇異やらの目で見られるでしょうよ。
でもこいつはまだそれに気がついてない。
(だが、好都合だ)
「弟」
「......は、はい」
「私はお前のその苦しみ、痛いほどわかるよ。ずっと見てきたからな」
「!」
――このとき、弟は思った。
いや、何言ってるんだこいつは?と。
(お前だって一緒になって僕をいじって遊んでいただろーが!)
その苦しみはお前のせいでもある。過去の記憶を思い返しふつふつと黒い感情が湧き出てくるのを感じる。
「化粧、私がしてあげようか?」
「!?」
「協力してあげるよ。女子の制服も私の昔使っていたやつ貸してあげる」
「!!」
「髪も私が切ってあげるし」
「!!」
(......なに......一体どういう風の吹き回しだ?)
こいつは許せない......だが、確かに女子の制服は必要だ。髪も切りに行くのめんどいし金も無い。ぶっちゃけ化粧の練習もやりたくない。
......仕方ねえ。
「お願いします」
「わかった」
許すわけじゃない。あくまで利用する、それだけだ......!!
――姉と弟、両者の思惑が巡る。
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