イスカリオテ行動録2

「これまた煤けた古い納屋ですね。こんなところで一体何をするんです?」

結局甘言に騙され、色々行ってきた(基本は如月の手伝いと文書作成だった)が今回は如月の活動拠点とやらに招待された。私の思っていたような、高層ビルの一角の部屋やちょっとした宮殿のような代物ではなく、どちらかと言えばパルチザンが正規軍を恐れ、隠れるための地下室のように感じた。そのギリギリ体をなしている腐りかけの納屋に入る。

「さあ。紹介しよう!これが俺の拠点兼、労働者たちの評議会だ!そして彼らが俺と志を同じとする同志、今は少ないけど各地に同志がたくさんいるんだ!」

納屋には、如月以外に4人ほどの人がおり、私のことを軽蔑しているな目で見ている。そして、如月の目的がなんとなく可視化し始めた。同志、労働者、ソビエト。やはり私は騙されていたのかもしれない。

「ちょっと急用を思い出しましたので退出させていただきます。」

このような邂逅を本社に見られたらたまったもんじゃない。最低でも記憶の消去、最悪の場合廃棄処分だ。

「君みたいなロボトミーに急用が入らないことぐらい把握済みさ。君はロボトミーを救うんだからこれからは彼らとも仲良くやらないと!」

そうは言われても相変わらず彼らは無愛想で見向きもしない人間もいる。私は如月に押されるがままに椅子に座る。ささくれだらけの木の椅子は軋む音を響かせる。

「彼らはどのような人達だと思う?イスカリオテ君。」

「まあ、労働者の評議会という事でしたのでその類の人だと...」

恐る恐る口に出してみる。少しの間静寂が佇んでいたが、それを一人の男が追い出す。相当イライラしていたようだ。満身の力を込めた拳で壁を殴りつける。

「またロボトミーかよ!なんでこいつらを仲間にしたがるんだよリーダー。」

「まあまあ。彼は他のロボトミーとは違うんだよ。彼はきっと俺達の信念をわかってくれるし協力もしてくれる。」

やはり私は忌避されているらしい。男は如月に言われるがまま椅子に座り直し足を組んで不愛想にしている。他の人間も同様に私のことを白い目で見ていたことは視認した。彼らは、多分...

「彼らはもしかして、私達に仕事を奪われた...」

「その通り!彼らはロボトミーに仕事を奪われたルンプロさ!」

仮にも同志である彼らのことをルンペンプロレタリアートだというのはいささか問題だと思うが、如月の雑な説得で納得したり、問題発言に対し意に介さない雰囲気を見る如月はこの評議会のリーダー、便宜上書記長にでもしておこうか。その地位を確立しているようだ。

「本題に移ろうか。イスカリオテ君、君にはここを拠点に私たちのスポークスマンになって欲しい。心配しないでくれ、仕事には支障は出ないし君が他のロボトミーの救世主になれるんだよ。どうだい?勿論報酬は弾むさ。」

最後だけ耳打ちをされた。どうやら彼らに私と如月の利害関係は明かしていないらしい。それもそうだ。如月は私に融資を取り付けてくれるがその財源がこの蹴とばせば壊れるような納屋にあるとは思えない。彼らには隠している債権的な存在があるのだろう。

「分かりました。協力しましょう。皆さんよろしくお願いします。」

彼らも渋々だが了承しているようだ(本心は知らん)。無論これは私個人の生活の為であり、彼らを助けたいだとかロボトミーの救世主だとかの大層な大義は私には存在しない。

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