第3話「初めての学校」
通り魔の一件から一週間後になり、俺も晴れて外出の許可を受けた頃。俺は元々魔導ヶ嶺の全寮制により、春休み中には必要な荷物はすべて運び出されているのであった。俺が外出できないと言うのもあり、荷物はすべてお父さんが整理してくれることになっている。手間が掛かるようで悪いが、ここはお父さんに委ねてしまわないといけないので、俺は有り難くその手を借りた。
そして入学式当日。俺もその行事には出られると言うことで、張り切って朝から電車に乗って魔導ヶ嶺を訪れていた。そこで俺は一旦自分の部屋に行き、その状況を確かめてから、魔導ヶ嶺の生徒と混ざって登校する。俺がこの場所に来たのは今回で二回目となり、まだ慣れないところでの活動は少し緊張感をもたらすのであった。
「おはようございます!」
「おはよう。君は確か通り魔に襲われて生還した子だね? 危ないところをよく生きて帰ってきたよ。情報によれば相手は筋肉増強の魔法を隠し持っていたようだが、君の【重力操作】による踵落としで怯ませた隙に逃げる策は見事だった。しかし、【重力操作】とは随分と高度な魔法を使うんだね?」
「まぁ、お父さんと一緒に極めた魔法なんでとても強力です。自身または対象物に付加させることが出来る魔法で、身体の重力を奪うことによって、高速移動を可能にします」
「ほう? それは頼もしい魔法だな? 今度の授業で改めて見せてもらおうか?」
「はい!」
俺は外で確かめたクラスの教室に入ると、すぐそこには担任らしき人物が立っており、彼女に挨拶をしておく。すると、どうやら彼女は初めから俺のことを知っていたようで、魔法について褒めてくれた。
そして俺は席に着くと、持ってきていたバッグから筆記用具などを取り出したら、それを後ろのロッカーに仕舞う。すると、そこですぐ近くにいた女子が、そんな俺に声を掛けて来た。
「あ、そこの君! おはよう。どうも初めましてだね? 私の名前は九籐稲音。いきなりで悪いんだけど、私とお友達になってくれないかな? 私って誰とでもお友達になれることを目指してるから、どうかそれを叶えるのに協力して欲しいの? 駄目かな?」
「え? 別に問題ないけど。俺の名前は夏条透一。よろしく」
「よろしくね!」
稲音はそうやって俺に笑顔を向けて来る可愛らしい女子だった。彼女はどうやら友達が欲しいみたいだが、実際に架空の存在以外にそんなキャラがいるとは思っても見なかったけれど、それでも悪くはないので俺としては大した問題でもないのだ。しかし、見た目的には素直で天真爛漫であると思われる態度や雰囲気が、どうも俺を誘い込んでいるように見えた。たけど、そんなところで俺が惚れている場合じゃなかったのだ。俺としてはそろそろ鳴ると思う矢来着席を急がせなくてはいないのであった。そのため俺は彼女に一言だけ断った時にはすぐに自分の席に座ったのである。
すると、そこで教室の教卓前で立っていた女性が口を開くのだった。
「よぉし! 諸君らは先に着いたかな? これから初めてのショートホームルームを始めたいと思う。私の名前は天野静香だ。ウィザードネームで言うとお馴染みだと思ってもらえると良いだろう。【レディウェザー】だ。得意とするは【気候操作】と言って空間魔法の一種だ。これはいわゆる天気を変える魔法として分類される。中には【晴れ】【曇り】【雨】【雪】【雷】と五種類の天気を操ることが出来るのだ。相当な魔力を消費するが故に私は多大なる量を保持しており、気候の変化に伴って自身に及ぶ効果が違って来るのが特徴である。他にも多少使えるが基本的に私としては【気候操作】があれば、大抵の魔導士を相手できるため、それなりに強いと言われているんだな。ま、よろしく!」
レディウェザー先生が扱う空間魔法は、広範囲に渡る大規模な影響力を及ぼすのが特徴と言っても良いだろう。彼女が扱っている魔法を使用すると、身に変化が起きるのはどこかで聞いたことがあった。それがこの人のことだと知った時にはもの凄い感動が起きる。後で色々と話が聞きたいほど、【天候操作】の魔法は凄まじく有名であり、俺の憧れでもあることからサインを強請って《ねだって》おこうと思った。それを放課後にでもお父さんに報告して自慢するのも悪くはないのである。
「それでは諸君はこれから入学式に臨む訳だが、そこで居眠りは決してあってはならないことだと思ってくれ。諸君に関してはこの先の未来を背負って行くウィザードであると言う自覚を持ち、その上で誇りを高く掲げて欲しいと思う。ま、取り敢えず入学式は居眠りせずにいるように! それじゃあ少しだけ立ち歩きを許可するから、教室の中で次のチャイムが鳴るまでの間は好きにしてもらって構わない。次にチャイムが鳴ったら諸君は体育館に向かってもらう。そこでパイプ椅子が並べられているから、そこに好きな順序で座っておくように! 以上だ」
それだけレディウェザー先生から言われると、全員が一斉に立ち上がり、立ち歩きを始めた。そして周りはそれぞれの相手と話し始め、俺はこの時間帯をどう過ごそうか考える。すると、先ほど友達になりたいと言っていた稲音が声を掛けに来た。
「おーい! 透一くん! 今からこっちで集まろうと思ってたんだけど、一緒に来ない?」
(丁度良いや。稲音のグループに入れてもらうか?)
そこで稲音からお誘いが来たので、俺は喜んでその輪に入って行く。そこには稲音が誘っていた人物たちが集まって、何かお喋りをしようとしてしるらしかった。そこに俺も混ぜてもらうことにする。
「久し振りね? 私のこと覚えてる?」
「あの時の? まさか落ちてなかったようだな?」
「ええ。もちろん貴方に敗れる前に倒した十一人のポイントで勝ち抜けだったわ。その分だけ惜しくもランキングは低かったわよ。しかし、それでも合格できただけでも良かったわ」
「それよりこの中で自己紹介しない? 私はとっくにしたけど、ここのメンバーは初めて顔を合わすでしょう? だから、今のうちに仲良くなっちゃおうよ!」
「そうだな。俺の名前は四島剛也。【鋼鉄化】と【鉄鎖】の魔法を良く好んで扱っているよ。全身を【鋼鉄化】させて殴打や蹴りなどの威力を底上げして、【鉄鎖】で縛り上げたところを襲い掛かるのが主な戦法だ。そんなに対したポイントも稼げなかったけど、この魔法は防御力も優れるところから、どんな攻撃も効かないぜ」
「なるほど。身体を鋼鉄で硬化させるのか! さすがに普通の攻撃じゃあキツそう」
「私の名前は蒼月氷華。【氷結】と【ボルトハンド】を得意魔法としているわ。掌から触れた箇所から凍り付かせ、拡散して行くことで凍結を広げるのよ。そして掌で電気を発生させては、触れることで感電させる魔法も得意としてるの。惜しくも透一ぬんの魔法には勝てなかったけど、一体どんな効果を発揮すればあんなになるのかしら?」
「俺は夏条透一。得意とするは【重力操作】の魔法だ。身体の重力をギリギリまで奪って軽くすることで高速移動を可能にした戦法と、踵落としや浮遊などを応用で駆使する。対象物にも付加や奪うなどの操作が可能で、俺はそれを使って戦うのが得意としている」
「へぇ? それって高度じゃない? 凄く難しそうだけど?」
「まぁな。これを習得するのに六年の月日を費やしたほどだ」
「ふーん? やるわね?」
そうやってここに集まったのはこの四人である。剛也や氷華などの魔法を聞いていて思ったことは、彼らは通常の誰でも使えそうでありながら、それらを駆使して勝ち上がったのなら、相当な戦闘能力を持っていると見てまず間違いはないことだ。そこでまず【鋼鉄化】の魔法は防御力と攻撃力ひおいて非常に優れていると思われる。始めに身体を鋼鉄で固めることによって、たいていの攻撃は効かないとして見ても良いと思った。しかし、そこで氷華の【氷結】や【ボルトハンド】などには耐性がないので、有効に当たるのではないかと思って良いだろう。彼が最も有利として見ても良い相手は打撃系の魔法や体術を扱う者だけであると思われた。それらの魔法が効果的なら俺も【重力操作】の他に【火炎操作】や【水流操作】などを扱って戦えば、幾らか対抗できるのではないかと考えることが出来る。さすがに【水流操作】では鋼鉄に敵わないが、【火炎操作】ならダメージを与えるのに十分だと思われた。
「ちなみに私の魔法はチェンジマジックでお馴染みの【狐化】を始めとして、【放炎】や【筋肉増強】なども出来るんだ。【狐化】は元々魔法と言うよりは日本神話にも登場する【九尾の狐】と一致しているところがあるんだよ? 筋肉増強は大した効果は発揮できるほどではないけど、多少の底上げ程度なら可能になるんだ。これからはみんなでお互いの魔法を習得し合うのも良いんじゃないかな?」
「筋肉増強か? あれは極めれば姿すら変わっちまうおっかない魔法だ。きっと稲音も磨き上げれば相当な実力として発揮できるだろう。俺も通り魔との戦闘経験で、かなり怖い目はあったからな。それなりに強い魔法なはずだよ」
「そう言えば確か通り魔も同じ魔法を使ってたんだよね? しかも人を殺すために使用したみたいだけど、私はそうなりたくない。いつか魔法を犯罪に使う人たちと対峙する時は、それに勝つことで罪の償いをさせるの。そうやって平和を築いて行こうと私は思うんだ。ま、ちょっとだけ恥ずかしいこと言っちゃったかな? でも、私としては本気だよ?」
(稲音の言いたいことは分かる。俺だっていつか通り魔から逃げないで立ち向かえる魔導士になりたい。だから、俺はもっと強くなるんだ!)
そんなことを心の中に抱きながら、俺は彼女のその決意に対して評価する。
「それは良いことだ。別に恥ずかしいことじゃない。それに俺らが魔法を学ぶ理由は競技としてのバトルを観客に見せるためだ。ここで悪に屈するようじゃあ話にならない」
俺は尤もなことを口にすると、それを聞いた三人はそれに対して賛同した。俺の言ったことは間違いではないと判断して、自分たちも同意であると示す。それが俺たち魔導士のあるべき姿何だと、そう思いたいからだ。
そしてお喋りは続き、いよいよチャイムが鳴った。それと同時に俺ら四人は一緒に体育館を目指して行くのである。そこまでの道のりを並んで歩むと、そこで体育館に入った瞬間に広い空間がそこにはあった。
そうやって俺らはレディウェザー先生の言った通りに適当な席順で隣になるように座り、本鈴が鳴るのを待つ。それまで俺らの中で会話を交わすと、そこでようやく本鈴のチャイムが鳴り響いた。
(そろそろか? 長くなるんだろうな?)
俺は居眠りだけはしないようにと心掛けはするが、眠気に襲われる中で必死に耐え得るのは非常に面倒だ。しかし、俺としてもこの場で居眠りなどしたら、レディウェザー先生からの信頼を損なうことになると思っているのである。だから、それだけはしないようにするのが鉄則だと、そう考えるのであった。
※ ※ ※
そして入学式も終わりを告げ、耐え続けたこの一時間は無駄ではなかったと思える瞬間だった。
「ふぅぅぅ〜。終わったな?」
「うん。もう眠くてしょうがなかったよ」
「そりゃあ一時間も長い話聞かされてればな」
俺らはまさに退屈な時間を過ごし切ったことに開放感を抱いている。それなくして大きく息を吐く理由などないのだ。
しかし、これから先はどんな風に授業が進んで行くのかが楽しみである。俺としては特に魔法科の授業に期待を込めているのであった。それが一番俺にとっては重要な意味を成していると思う。何せ俺がこの魔導ヶ嶺を選んだ理由としても【魔法の名門校】とまで言われたぐらいだからだ。
そして俺らが全員教室に戻ると、そこには黒板に次に行うことが記されていた。
「次の時間は少し話をして終わりになるのか? そりゃあ助かるわな。この後は放課後になるだことだろ?」
「そうだね? それじゃあ何しようか?」
そんな声が上がる中で、俺は稲音の席に来ていた。そこでさっきの四人でお喋りをしていると、教室にレディウェザー先生が入って来る。
「よぉし! みんな席に着け! 帰りの会話するぞ! この後に関してはすぐ放課後にしたい! みんなで協力してくれ!」
その声掛けに俺らは即座に行動に移し、A組の生徒は全員で着席をする。そうすることで俺らとしては帰るまでの時間を短縮して、より早く放課後を迎えられるようにするのであった。
こうして俺らの初登校は終わりを告げようとしている。その時、俺はこの後で何をして過ごそうか考えた結果からすると、やはり通り魔を倒すための実力を付ける訓練を自主さを持って行うのが良いと思った。なので、得意とする【重力操作】の魔法をさらにグレードアップさせる方針で行くことが良かったと考えるのである。
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