第2話「通り魔」

 実技試験が行われた日から一週間後になった。そこで俺は【私立魔導ヶ嶺高校】の本校舎に行き、合格発表を確認しに行くのである。それにはお父さんも付いて来て、俺の結果発表を目の当たりにした。


「おっしゃぁ! 合格だぁ!」


「おめでとう! やるじゃないか透一!」


「当たりめぇだろ‼︎」


 そんな感じで俺は【魔導ヶ嶺高校】の試験に見事合格して、それに満足したのであった。その後はお父さんが先に帰り、残った俺は遅れて帰宅するのである。一人になった俺としてはこの喜びを噛み締めながらも、自宅に帰る道のりを歩むのであった。


 一人で帰宅していた途中でのことだ。俺は普段とは違う道のりで帰っていたところだった。合格発表の時にはすでに暗くなっていたが、それでも魔法があれば何が起きても問題ではないと思っていたのだ。しかし、そこである事件に巻き込まれるとは思いもしなかった。


「ねぇ? 決まってまさか一人で帰ってるの?」


「あぁ?」


 俺はそこで振り返ると、大鎌を持った仮面とマントを付けた人物が立っていた。その仮面のせいで性別が分からなくなっているが、声からして男なのは間違いなかったである。しかし、そこが重要なのではないのだった。その大鎌を持った男は俺もニュースなどで知っていた人物だ。


「最近出現した神出鬼没の【通り魔】じゃねぇか? 俺に何の用だ?」


「逃げなくて良いのか? 早くしないと切り刻んじゃうよ? それとも俺と戦うと言うのかい?」


「お前の使う魔法なら聞いたことがある。中でも逃げる相手に対しては【脚力を底上げて息切れをなくす魔法】を扱うそうだな? それなら俺と二人で勝負だ。どっちが先に息の根を止めるのかをね?」


「ほう? 分かっているのか? 俺が狙った相手は確実に死んでいる。そんな実歴を前にして敵うとでも思ったか?」


(相当な自信があるようだが、逃げ切るのは訳ない。しかし、これ以上はこいつを野放しには出来ないだろう。ならば、俺が退治するのも良いよな?)


 内心で思ったことによると、俺からこの通り魔を退治して世間がより平和でいられる道を指し示すのが良いんじゃないかと言う話だった。それを俺がするべきなのかは大抵の場合は分かり切ったことだ。もちろん中学生の俺から手を下すべきではない。しかし、敵わないと判断した時こそ、【重力操作】の魔法で逃げ出したいと思った。もし倒せるのならこの場で片付けておくのが良いと言う結論になり、俺はまず自身の重力を限りなく軽くしては、高速移動を可能にするのである。


「行くぞ!」


「来い!」


 いきなり目にも止まらないスピードを発揮して見せた通り魔。彼はその素早さで俺を殺しに来たが、その動きは俺の目で捉えられないほどでもなかった。もちろん速度に関しては文句ないのだが、俺なら対処できるレベルに過ぎないため、簡単に間合いを詰められるのと同時に下がる。そこで俺は相手以上の速度を発揮して見せると、通り魔の背後に回り込んだ。そして振り返ると同時に俺が顔面を殴り付けたら、そこで通り魔の仮面が外れて素顔が露わになる。


「くっ! 見られたか!」


「それがお前の素顔みたいだな?」


「やはりおまえを生きて帰す訳には行かなくなった。絶対に殺してやる!」


(魔力が急激に上がって行く? 一体何の魔法を発動するつもりだ?)


 すると、通り魔は素顔を見られたことで怒り出し、その果てに多大なる魔力を消費して身体強化させた。


「これが真の魔法と言う奴だ!」


「何っ⁉︎ さっきと様子が異なりやがる⁉︎」


 筋力の増加による体格の変化が伴われ、一気に巨体化した通り魔の姿はまさしく先ほどまでとは比べようのない外見となっていた。それを倒すことが果たして俺に出来るかが不安になる。


(まずい⁉︎ これじゃあ俺の殴打では通用しない。ここは逃げ切るしかないんじゃないか⁉︎)


 通り魔が本気を出すことで、真の恐ろしさを味わった俺はこの場で逃げ出すべきかと悩んだが、そんなに考えている暇など与えてくれない。通り魔の真の実力が発揮された時、こんな奴に敵う訳がないと思うばかりだった。


「さぁ! これで移動速度も互角と言ったところか? さっさと殺してやるぜ!」


「畜生ぉ!」


 俺は慌てて逃げ出す覚悟を決めた。ここで迷っている暇などなかったのだひたすら走って人通りの多いところに出れば逃げ切れるだろうと思い、そこを目指して走った。


「まぁてぇぇぇ!」


「速い⁉︎」


 どーん!


「ぶはっ⁉︎」


 俺はそのまま背中に向けて凄まじい一撃を食らって、そこらに転がった。かなりのダメージを受けた俺の全身に痛みが走って、すでに逃げ切れる状況じゃなかったのである。


(この状況を打開するには戦うしかないかも知れない……)


 絶体絶命のピンチを迎えた俺は逃げる以外の選択肢を迫られ、立ち上がると同時に思考を即座に巡らせては、勝てる策を練った。そこで俺がこの通り魔に勝つには、いつも練習していた体術を使うしかないと思い立つ。


(俺がお父さんと編み出した【重力操作】を利用して底上げされる体術。これぞ俺の本気とも言える見せ場だ。これが通じれば相当な自信に繋がるだろう)


 このピンチの中で最も勝率が高い戦法と言えば、踵落としをする際に足へと重力を付加させることで、振り下ろすスピードと威力を強める方法だと思われた。きっと顔面に当たれば相当なダメージは食らうと予測して、俺はまずそこまで足を高く上げられるように重力を奪って軽くさせるのだ。


「さて、これでもうお終いだな?」


「まだまだぁ! ここで死んで堪るかよ!」


 俺は素早い動きで通り魔の頭上まで足を上げ、そのまま戦法通りに重力を加えては、下に向かって落ちて行く力を利用して振りかざした。すると、そんな予想外の動きを見せた俺に対して対応が遅れた通り魔は、俺が放った渾身の踵落としを諸に食らうのだ。


「はぁっ!」


「ぐっ⁉︎」


「おりゃあ‼︎」


 そのまま重力に逆らわず地面まで落ちて行った通り魔の顔面をその場にめり込ませる。これほどのダメージはさすがに効くのではないかと期待でき、俺はその隙を見計らって逃げ出した。


 そのまま真っ先に逃げ出すと、俺の後ろを追い掛けて来る通り魔の姿はなかったのである。これでようやく逃げ切ったと思うと、すぐさま警察に通報するのであった。警察官が通報通りに駆け付けた時には、すでに通り魔はいなくなっていたであった。しかし、その場には割れた仮面の破片が落ちていて、それが重要な手掛かりとして回収させたのである。


「よく無事だった! 話は警察官から聞いたよ。通り魔相手に凄い踵落としが決まったんだって? そりゃあ驚いたよ」


「まぁな。あの時は冷や冷やしたよ」


「筋肉を増強させる魔法も扱えたなんて新情報だったらしいな? よく生き延びてくれた。さすが俺の息子だよ」


「それほどでもねぇぜ。さすがに死にたくはなかったしな」


 再び襲われる心配を考慮してしばらくは外に出ないように呼び掛けられたが、その間は俺も筋トレを重ね、春休みを過ごした。本来なら魔導ヶ嶺は全寮制だったので荷物を運ばなくちゃいけなかったが、それは全部お父さんに済ませてもらう。それから入学式の日になった頃には俺も外出を許可され、晴れて寮生活を始めることが出来た。


 こうして俺は無事に生き残ることが出来たのである。しかし、通り魔は今でも行方をくらませ、逃走しているそうだ。またいつ襲って来るか分からないと言うが、その時には撃破できるようになっていると助かると警察からも言われ俺としてはそれに応えたいと思うばかりだった。

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