史上最強を目指す青年は魔導ヶ嶺で成り上がる

源真

序章「ようこそ魔導ヶ嶺へ」

第1話「実技試験」

 それは古来より魔法を取り扱って来た人類のお話。


 かつて人間は【魔界】に住む魔族と呼称される人外の力を借りることで、魔力を得ていた。そうすることで魔族が扱っている魔法を取り入れ、徐々に人類にも魔力を持って生まれる人間が誕生する。それから魔族などの生き物は不必要とされ、対立を図る動きが見られた。それを知った魔族の王でもある【魔王】は自ら人間との決闘を申し込み、戦が勃発するも敗北に終わり、そいつらの時代は幕を閉じたのである。


 最近になって魔族たちは人間を恐れ、二度と人間界を訪れることは少なくなったが、密かにその手を借りて膨大な魔力を得ようとする奴らも少なからずいたが、そいつらに関しては政府から処分を受け、処刑されるのがオチだった。そんな政策が挙がって行く中で、魔族たちが再び人間とやり合うために力を付けて行き、再戦を申し出る動きを見せる。人類はそんな魔族たちを退治するべく、設けたのが魔導士協会だった。人類としてはそれらが魔法を管理し、より発展した世の中を望みながら監視する手立てを企て、現代にもそれが残っている。


そんな中で魔族との戦いを高度な空間魔法を施して異空間を形成し、そこで対決した結果は人類の圧勝であった。さすがに勝てないと見込んだ魔王が殺される前に有りったけの魔力を消耗しながら邪悪な心を持っているこの世間に不満だった連中らを集めた【大規模犯罪組織】を結成して、人類に害をもたらす働きを促す。そう言った犯罪者の心を逆手に取った魔王との戦いは、まだ先がありそうな展開だった。


 ※ ※ ※


 俺の名前は夏条透一。中学三年の夏休みを終えたばかりの十五歳だ。そんな俺としては魔法こそが生き甲斐であると思っている。魔法を扱うことでより一層自分が生きていると思えるのだと、そう内心には抱かれていた。


「なぁ、透一? お前の将来は【史上最強の魔導士】だろ? だったら、誰よりも強くなりなさい」


「分かってる。だから、進学先は【私立魔導ヶ嶺高校】に決めてるんだ。それなりに頑張ってるんだぜ? 俺だって成績だけは良好な理由がある」


「そうだな。さすがに透一の頑張りは認めるよ。しかし、油断は禁物だ。成績だけじゃあなり得ないことがある。けれど、きっと透一なら出来るだろう。だから、諦めるな」


 その時、俺はお父さんと正面から話し合っていた。将来について考えなければいけないことを一緒に話していたのだ。そこで俺が目指すのは史上最強の魔導士として成り上がることである。その夢を以てこれまで魔法を扱って来た。それがこの先で一体どんな力に変わり得るのかと言うと、やはり努力次第で変わって行くのだろう。


「よし! それじゃあ明日も頑張ってトレーニングするぞ! お父さんも応援してるからな!」


「おう!」


 そんな感じで俺はお父さんに背中を押されながらも、夢に向かってひた走るのであった。


 ※ ※ ※


 そして実技試験を迎える。俺は数々の訓練を得てこの場で挑戦することにしていた。そこで全力を尽くし、この試験を無事に受かることが第一目標となっている。なので、ここでまけてはいられなきのだ。


「さぁ! 良くぞ集まってくれた諸君! 今日行われる実技試験こそが、最大の見せ場になるのはご存知の通りだ! これから始まる実技試験に勝ち残って見せろぉ!」


(いよいよやって来たな? この先が本当の試練と見ても良いだろう)


 そんな風に覚悟を決めた俺はこれまでに習得して来た魔法を駆使することで、この試験に受かりに行くのであった。


「まずは簡単なルール説明から行くよ! 諸君に行ってもらうのは、八カ所に分けて潰し合いだぁ!」


(来たか? これは中学の授業でも行われる基礎中の基礎だ。これを実技試験として取り入れているところは数百カ所に及ぶ。単に潰し合いと称していたが、正式名称は【ウィザードイーター】と呼ばれているのだった。お互いに戦って戦闘不能に陥った者から脱落して行くこの試験は倒した数だけポイントが加算される方式になっている。なので、脱落したとしてもそれまでに獲得したポイントによれば、生き残る確率は十分にあるとされ、最後まで残った奴らには十ポイントずつ獲得できる仕組みになっているのだ。いかに生き残るかが最終目標として掲げられる【ウィザードイーター】では、戦闘不能にだけはなってはならない戦いだと聞いた)


 仕組みは授業で習った通りだ。まず第一条件で言うと、どれだけ討ち取れるのかが問題となって来る。倒した数だけポイントが加算されるが、負けたらそれ以上は望めないと思った方が良いのだ。さらに生き残れば十ポイントも増えると言うことは、敗れないようにするのも先決である。しかし、積極的に勝ちに行くのも手立てとしては重要だった。


(俺はこの戦いで生き残ることが出来ている。ならば、実技試験でも勝ち残ることが出来なければ話にならないと思われるだろう。しかし、討ち取ることに関しては俺の磨いた魔法で何とかなると思うので、俺としてはあまり問題とすることはないと思っている。だから、まず進んで倒しに行くことを恐れないのが妥当だと、俺はそう考えているのだ)


 そのように俺が内心で思っていると、早速対戦で当たる相手が八地区に分かれて決められた。そこで俺はより多くのポイントを稼いで、この実技試験を生き残ることを考える。この戦いこそが俺の備えて来た課題でもあったので、ここで勝ち取らないのでは、今まで鍛えて来た意味がないのだった。だから、俺はこの場で誰よりも討ち取ることを誓ったのである。


 そしてAからHまでの地区に分かれて実技試験が始まった。前の順番で当たる奴らは他の地区にいる志望者とは対戦しないことになっているので、そいつらが戦うところは生中継で送られる。ちなみに【魔導ヶ嶺高校】では保護者の方にも中継は行き届いているところからして、自分たちの応援する志望者たちの戦いを見守ることが出来るシステムとなっていた。そこでハラハラドキドキさせられている保護者が見守る中で、俺らはその期待に応えなくてはいけない。なので、俺としても負けられない一戦だった。


(相手は二十九人。この実技試験は三十人ずつで分かれるようになっている。その中でどれほどの志望者を相手にしなくてはならないのかと言うところで、俺は一気に纏めて片付ける策を考えているのだ。この実技試験で無双しては、俺の実力を世に知らしめるのが一番手っ取り早いだろう。俺が目指すは【ベストウィザード】と言う最強の証なのである。この場で生き残れなくてそれが言えるのかだと、やはり違って来るのだろうな?)


 心の中で準備は出来ていた。俺のお父さんも見守っている中で、己は期待に応えることだけを考え、将来を応援してくれる人たちのため、この一戦で勝ち取るのだ。


 そして俺の順番が回って来た時、広範囲に及ぶ空間魔法を利用したステージで、自分を含めた三十人が散らばる。それほど敷地は広大であり、その規模は全国でも一番だと言われていた。


「それでは位置に着いたかな? 諸君はこれから戦闘を行なって、ポイントを稼ぎに行くのよ! そこで弱音だけはなしにして欲しいわ!」


(ようやくこの時が来た。俺の愛用している魔法は全部で三つ。中でも【自身または対象物に重力を付加あるいは奪う魔法】を極めている。それを強く活かした策はお父さんと話し合って決めたことだし、きっと俺なら行ける……!)


 そう心の中で思いつつも、俺は深呼吸をしてから感情を落ち着かせる。そしてスタートの合図が鳴るまで魔力を全身に流し込むのであった。


「でほ、D地区の対戦スタート!」


「行くぜぇぇぇ‼︎」


 俺は大きく動き出した。それも最初に磨き上げた魔法を駆使して身体に影響を及ぼし、強化を促すのである。


(まず身体の重力を実際よりも軽くさせ、素早い動きを実現させる。これで相手よりも素早く動ける!)


 そして俺は周囲にいる相手が視界に入ったところで、目にも止まらないスピードを上げて間合いを詰めては、すぐさま攻撃を下す。


「これでも食らいな!」


 瞬時に急所を見極め、相手のみぞに向けて殴打を繰り出した。スピードに乗っていたせいか、その威力は底上げされ、強力な一撃を食らわせる。勢い良く後ろに吹っ飛ばし、そのまま壁に激突しては、そのショックで気絶するに至るのであった。


「どうだ! これぞ俺の力!」


「畜生ぉ! あいつ速いぞ⁉︎」


「有り難いねぇ? うようよ出て来たじゃねぇか? これは倒し甲斐があって助かるぜ!」


 高速移動で近くにいた奴らから力強い一撃を放ち、後ろにいた奴らごと吹っ飛ばした。そうすることでお互いに勢いよく激突させて、戦闘不能に陥らせる。周囲の相手に魔法を使わせずに倒すことで、俺は多くのポイントを稼ぐ策に出ていた。


「この程度じゃあ相手にならねぇな? このまま全滅させてもらおうか?」


 すると、そこで俺に対してそれを否定する声が上がった。


「それはさせないわ!」


(んぅ?)


 声のする方を向いて見ると、一気に地面を通って氷結がはなたれ、俺の足元を凍り付かせる。


「何ぃ⁉︎」


 俺は一気に膝まで凍らされ、そのまま動きが封じられてしまう。それを放った少女は周囲にも及ぶ氷結で、辺りを凍り付かせていた。


「これでどうかしら? もう動けないでしょ?」


「さすがにやるな? そうでなくちゃ詰まらない時間になりそうだったぜ!」


 ぼわぁぁぁん!


 俺は炎魔法を駆使して凍り付いた足を溶かした。それを見て彼女は驚き、違う魔法を使って来たのである。


「だったらこれでも食らいなさい!」


 その女は間合いを詰めて来る。見た感じだと、掌で電気を発生させる魔法らしかった。きっとそれで俺に触れて感電させようと言う手段であると思われる。しかし、それを受ける前に俺は再び重力を操る魔法で身体を軽くし、身動きを素早くさせてから、彼女に劣らないスピードを出す。すると、彼女はそれに着いて行ける訳もなく、後ろに回り込まれては背中に大きく拳で殴られた。


「はぁっ!」


「きゃぁっ⁉︎」


 彼女は回避することすら出来ずに吹っ飛ばされてはそのまま気絶した。これで俺を楽しませてくれる相手はいなくなったように思えたが、そこで周囲に目を向けた時、そこには誰の姿もなくなっていたのである。


「ほう? 逃げたか? それじゃあ探し出そうかな?」


 さすがにこれ以上のポイントはいらないかも知れないが、一応これも実技試験と言う訳で、真面目に稼ぎに出るのが良いと判断した。見つけた相手から殴って行くと、そこでタイムアップとなってしまう。


「終了ぉ! そこまで!」


(終わったか? さすがに全員は倒せなかったが、逃げているだけで勝ち上がれるほど甘い試験でもないだろう)


 そうやって俺は逃げてしまっていた奴らが上がって来ることらないと思いながら、試験場から抜けた。俺のポイントは全部で【三十四ポイント】だ。どうやら十二人ほど倒せたらしく、さらに十ポイントが加算された。さっきの女子が倒した分も考慮すると、多分彼女も勝ち上がりにはなったかも知れないと思う。


 そして最後まで試験を観戦していると、俺と同等な奴らが数人ほど見掛けた。そんなにポイントを稼いでいるようには見えないが、最後に見た奴だけはかなり獲得していると確信が持てた。


(全滅……? さすがにこれは規模がでかいな?)


 俺でも恐ろしくなるほどの広範囲攻撃が繰り出され、一気に三発で全滅しまうほどの波動を放出した奴が現れた。開始三十秒ほどで全滅に至らしめたその男はかなりのやり手だと周囲が驚いている。俺はそんな彼が実技試験を上がって来たと言うことは、ライバルとして見るのが妥当であると思われるが、それに値するかはまだ分からないと言っても良かった。しかし、こいつはただ者ではないと、確信できるほどの高威力で波動が放たれたのだ。


 そして取り敢えずは試験も終わり、俺は最後に審判からの一言を聞いてから、自宅に帰った。家でお父さんと合流しては、俺が出した結果を知らされた両親がお祝いを施してくれるのである。


 こうして俺の実技試験は幕を閉じた。結果は良好だと思われるが、後は一週間後の合格発表の時を楽しみに待つとする。そこで俺が合格を果たすのは大抵決まっているように思えるが、それでも最終的に出る結果が楽しみなのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る