第85話
私はテーブルに置いてあるカップを手に持った。ヴェーラがこのカップを頻繁に使っていたとするなら、彼女の魔力は間違いなく色濃く残っているはずだ。日にちが経っていてもある程度はカップで探し出せるかもしれない。
でも待って。
さっきヴェーラは『待っていたのよ』と言っていたわ。という事は事前に誰かがここにくることを知っていたのかもしれない。
誰かがヴェーラに伝えていたのか? 馬車で彼女を追う前にヴェーラと面会した人のリストを見なければいけないと思う。
貴族牢を出て騎士団の棟へとやってきた。騎士たちは忙しそうにしていた。王宮の事件以降、殺気立っているのは仕方がないと思う。
「あの、貴族牢の調査に来たのですが」
声を掛けると受付の騎士がやってきた。受付の騎士は腕章を確認した後、用件を聞かれ、私はヴェーラが脱獄をした日に貴族牢の警備をしていた騎士を呼んでもらった。
ヴェーラが脱獄した日、貴族牢の警備を担当していたと言う騎士にも当時のことを聞いてみた。
騎士の話では、牢前で交代時にほんの少し雑談していた。時間にして五分程度だったらしい。その後、交代してすぐ騎士が各部屋を見回った時には既に脱獄した後だったようだ。
姿が見えなくなる魔法?
認識阻害魔法なのかしら?
出る前に何か道具を使ったような感じだった。
その後、ヴェーラの言葉を確認するように私は面会人のリストの確認もした。
ヴェーラの面会には夫人が度々来ているけれど、他には誰も来ていない。
夫人が何か知っているのかしら?
リストを出してもらった騎士に尋ねてみたけれど、ここではヴェネジクト侯爵夫人を呼び出して話を聞く事は出来ないと言われてしまったわ。
ヴェーラが脱獄してすぐに騎士団が邸に赴いて話を聞こうとしていたけれど拒否されたと。
どうやら夫人は『流行り病で臥せっているので今は誰も面会出来ない』のだとか。怪しいけれど、仕方がない。周りの状況を調べられないとなるとやはりカップから追うしかない。
以前、マロンを探す時に使った探索魔法をここで使うのはまだ早いかなと思う。相手は魔道具を使用している。
組織が関与している可能性があると師匠も言っていたし、直接ヴェーラを追って、周りの状況がよく分からないまま敵陣に突っ込む可能性もあるのよね。
師匠のことだからそんなことしたら『不合格。修行が必要だ』って魔獣の巣に落とされそうだ。
そして牢前に戻り、探索魔法とは違う魔法をカップに掛ける。
私は腰に下げている小さな小袋から一つの小瓶を取り出した。
牢前で捕捉したヴェーラの魔力とカップからの魔力の残滓を一致させた後、小瓶の中から一つまみの砂を取り、残滓に混ぜた。
この砂はラカン鉱石を磨いて削った時に出た砂。
魔力に反応して砂はフワリと光りながらヴェーラが逃げた後をなぞるようにゆっくりと動き始めた。
隠れる様子はない。堂々と道を歩いていたみたい。やはり透明になるか認識阻害の道具を使っていたと考えられる。
認識阻害や透明になる魔法をヴェーラ本人は使えない。学院でも王太子妃教育でも教えられていないもの。
彼らが時々止まりながら街へと出ていくのが分かった。
一つ目の大きな道に差し掛かった時、砂は止まり、高さを変えて道に出てスイッと進んでいく。
どうやらここで馬車に乗ったみたい。先ほど使った魔法で魔力の残滓を探る。
「お待たせしました。どうぞお乗りください」
「疲れたわ! これから何処へ行くの?」
「隣国へ向かうように指示されております。ですが今すぐ隣国へ向かうのは悪手です。脱獄がばれてしまえばすぐに国境が閉鎖されるはずですから」
「わたしは邸に帰りたいわ!」
「そのような指示は受けておりません。ヴェーラ様を匿う場所へお連れせよとのことです」
「……わかったわ」
出発しかけた時、魔法使いがどうやら魔法を掛けたようだ。
これ以降の会話やどこに向かったのかが分からなくなっている。
手がかりを調べて歩かなくてはいけないわね。
見えた人影はヴェーラを含めて四人。一人は御者と思われる人。もう一人は魔法使い。魔力が高いのかもしれない。もう一人は脱獄時に感知した魔力と同じものだった。
他に情報を得るのにはどうしたらいいんだろう?
先ほどまでのやり取りを師匠に報告した。
師匠からは探索行動するには魔力を使いすぎているんじゃないか、少し休むようにと魔力の心配をされた。ヴェーラの後をすぐにでも追いたいけれど、師匠の言っていることは尤もだわ。
寮に戻った後、いつもの小屋へと向かう。
私はそっとランドルフ様をソファに置いて隣に座った。
ここからどう動けばいいかしら?
考えているうちに私はいつのまにかそのまま寝てしまっていた。
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突然の告知になりますが…。
12月7日ツギクルブックス様より書籍『時を戻った私は別の人生を歩みたい』が発売されます!
お待たせしました!!
鳥飼やすゆき様に素敵なイラストを描いて頂きました。
師匠好きです。結婚して下さい。笑
冗談はさておき…ここまでこれたのも読者様方のおかげです。本当に有り難うございます!
彼のことも本の中で書かれております。
お手に取って頂ければ幸いです。
あと…。
今回、カクヨムコン10にはじめて参加する予定です。作品→『魔力無し判定の令嬢は冒険者を目指します!』https://kakuyomu.jp/works/16817330648636109045
11月29日から再掲載予定です。29日からカクヨム様にて⭐︎で応援して頂けると作者狂気乱舞します!
これからもよい作品を生み出すべく頑張りますので応援宜しくお願いします。
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