第83話

 私はランドルフ様を籠に戻してから寮に急いで戻った。


 一応、ラカン鉱石の上部は金具が取り付けられるように作ってあり、ネックレスなどにして持ち歩く事が出来るようにしてあるわ。手のひらの半分サイズの鉱石。それ以上小さく出来なかったのは今の私では魔法円がこのサイズよりも小さな物に出来ないから。


 師匠なら小さな装飾品に仕上げちゃうんだろうけどね。


 そうこうしている間にヒルフォード子爵家へ到着した。


「すみません、先触れはないんですが、シェイラード嬢に会いたくて。治療に来ましたと伝えて貰っていいですか?」


 子爵家の門番に伝えて門前で待つ私。しばらくするとシェイラード嬢の母が出てきた。


「どうぞお入り下さい」


 元夫人は笑顔で迎え入れてくれた。


「あれからシェイラード嬢の体調はいかがですか?」


 夫人にシェイラード嬢の部屋まで案内してもらいながら雑談をする。


「ユリア様に治療していただいた後から元気を取り戻し、邸内や庭にも出れるほどになったんです。昨日から少し体調は悪くなってきていますが、以前に比べると全然違うんですよ」

「それは良かったです。今日は突然お邪魔して申し訳ありません。どうしても急いで渡そうと思って」

「渡す……?」

「とりあえずシェイラード嬢にお会いしてからお見せしますね」

「シェイラ、今大丈夫かしら?」

「はい、お母様」


 開いた扉の先にはベッドに座っているシェイラード嬢がいた。

 前回会った時より幾分か顔色はいいけれど、やはり魔力が溜まってきているのか辛そうだ。


「ユリア様がいらっしゃったの」

「ごきげんよう。こんな時間にごめんなさい。シェイラード嬢、体調はいかがですか?」

「ユリア様!」


 彼女は私の姿を見つけると慌ただしく髪を撫でて整えている。


「えっと、体調は昨日から少し怠くなっていましたが、それまでは元気に過ごせていました」

「良かった。また体調を診せてもらっても?」

「良いんですか?」

「ええ、ベッドに横になってください」


 シェイラード様は私が言うままにベッドに横になった。私は彼女の手を取り、魔力を流してみる。

 以前に比べると大きな塊は出来ていないけれど、相変わらず小さな塊が無数にある。


 今回は出来る限り魔力を流して取り除いていく。


「少し、時間は掛かりますが」


 声を掛けながら魔力を循環させ、塊を取り除いていく。シェイラード様の顔色もしっかりと見ている。


 ……徐々に頬に紅が差してきたわ。


「魔力の塊はかなり無くなったと思います。ここからシェイラード様の魔力を吸っていくのですが、今日はこの石を持ってきたんです。装飾品にするには大きくてごめんなさい。私の技量ではこの大きさにしか出来なかったの」


 私は作った先ほど作ったばかりの石を彼女に見せる。夫人も私の横に来て心配そうに見つめている。


「……これは?」

「シェイラード様用に作った魔力を外へ放出するための石なんです。一応、チェーンを付けて首に掛けられるようにしているんですけど……」


 不格好なのは本当に申し訳ないわ。


「触ってもいいですか?」

「どうぞ」


 彼女は驚いた後、石に手を伸ばす。その指は少し震えていた。私はそのまま彼女に石を渡した。


「この石はどうやって使えば良いのですか?」

「この石を持って魔法を使うように石に魔力を流すだけでいいわ」


 本来なら魔法を使ったり、余分な魔力は自然に外に放出されるけれど、シェイラード嬢は放出する器官が極端に小さい。小さすぎて上手く魔力が出せなくて体内に留まり塊が出来る。


 この石は放出するための補助具のようなもの。彼女は石を手で優しく包むように持ち、そっと魔力を流しはじめる。すると、何の変哲もなかった石は魔力を感知し、淡い光を放ち始めた。


「どうですか? 人が魔力を奪うより、自分で魔力を流す方がずっと楽に出来るかなって思って作ってみたんです」

「凄いです。痛みもないし、身体から余分な魔力が抜けていくのが分かります」


 しばらく彼女は魔力を放出した後、石に魔力を流すのを止めた。


「ちゃんと出来ているか確認しますね」


 私はまたシェイラード様の手を取り、魔力を流してみる。魔力はスムーズに流れていて残っていた小さな塊も殆ど見当たらない。


「見たところ、他の人と変わらないほどの魔力の流れです。体調はどうですか?」

「前にユリア様から治療していただいた時よりもずっと楽になっています。ほ、本当に、私は他の人たちと変わらないのですか?」


「ええ、もう大丈夫だと思います。ただ、シェイラード嬢は人より魔力を外に放出する術がないので定期的にこの石に魔力を流してもらわなければまた塊が出来ると思います」


「どれくらいの頻度ですればいいですか?」

「シェイラード嬢の感覚で大丈夫だと思いますが、毎日、先ほどと同じ量を流す方がいいですね。ああ、それと予備にあとの二個もお渡ししておきますね」

「いいのですか?」

「ええ、もちろん! 師匠の課題で作った物なので石も無骨でごめんなさい」


 シェイラード嬢は渡した石をぎゅっと抱えて泣き始めた。


「嬉しいです。もう、動く事も出来なくて、死ぬことばかり考えていたのに。こんなに元気になるなんて思ってもいなかったんです」


 シェイラード嬢の泣いている姿を見た夫人も隣で涙を拭っている。


 ここに至るまで辛い思いをし続けていたのだと思う。

 二人の涙を拭っている様子を見て私も胸が熱くなった。


「良かった。……どうか、元気な姿で夫人と一緒にブロル元総長に会いにいってあげて下さい。それが私の願いです」

「私たちが行ってもいいのでしょうか?」


 不安そうな声で聞いてきた。


「ブロル元総長は、待っていると思いますよ。シェイラード様のことをとても心配していました」

「うぅっ、うっ。有難うございます」


 しばらく二人とも泣いていたけれど、ようやく落ち着いてきた。


「遅くまでごめんなさい。私はそろそろ帰りますね。シェイラード様、体調に変化があったらいつでも呼んでください。石に不具合があるとか壊れたとか。いつでも飛んできますから」「何から何までありがとうございます。感謝しかありません」


 私はシェイラード嬢が元気になったことを確認して寮に戻った。


 あの様子ならもう大丈夫だと思う。


 部屋に戻ると師匠の姿は無かった。きっと王宮で何かしているのかもしれない。

 私はランドルフ様にお休みの挨拶をした後、自分の部屋に戻って眠りについた。

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