第82話

「師匠、ラシュフォールの鉱石を磨けました」

「どれどれ? うん、よく磨けているよ。じゃあ、この間からユリアが考えていた魔法円をこの鉱石に刻んだらいいよ」

「あの魔法円で大丈夫ですか?」

「んー大丈夫じゃないかな」


 王宮から戻ってきた師匠は難しい顔をしながら私の隣で報告書を読んでいる。話し掛けても話半分の返事しか返ってこない。


 ヴェーラが脱獄してから数日が経つが、騎士団と協力して彼女の行方を探しているけれどまだ足取りは掴めていないらしい。


 鉱石に魔法円を書き込むのはとても難しい。

 私はまず練習用の石を持ち、指の先から魔力を大量に放出ながら魔法円を石に刻んでいく。


 ただでさえ魔力を糸のような細さにして指先から出すのは至難の業なのに一定の魔力で休むことなく削り続ける。削る深さにムラが出ると効果にも影響してくる。


 魔力を放出するには豊富な魔力を持っていなければいけない。


 師匠はいとも簡単にネックレスや腕輪に刻んでいるけれど、並みの魔法使いには難しい芸当を彼はしている。


 そういう理由から魔道具を作ることの出来る魔法使いはほんの一握りの人しかいない。


 私のすぐ側にランドルフ様が寝ている籠がある。


「練習は完璧ね!」


 私はふうと一息吐いてラカン鉱石を持った。


「では、やります!!」


 指先に魔力を込めて緊張しながらラシュフォールの石に刻み始める。


 ……… …… … 出来た!



「師匠、出来ました!!」

「どれ、見せて」


 私は魔法円を刻み終えた鉱石を師匠に渡すと、師匠はジッと見ている。


「うーん。まあ、いいんじゃない? あと三個頑張って」


 そう言ってまた資料とにらめっこし始めた師匠。


 あと三個……。


 緊張しながら二個目を取り掛かり、三個目には緊張が途切れる。そして四個目、何となくコツを掴んだかも!?


「師匠、出来ました!!」

「どれ。……この二個は不合格。あとはあげてもいいんじゃない」

「良いんですか?」

「そのつもりだったんでしょ?」

「はい!」

「んじゃ、急いで行った方がいいんじゃない? 彼女、そろそろ寝込むころだし。それにもうすぐ日が暮れる」

「!! 急いで行ってきます」

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