第81話陛下ワズルガードに指示を出す

「陛下、ヴェーラ・ヴェネジクトが何者かの手引きにより貴族牢から脱獄しました」


 一人の騎士が執務をしていた国王の部屋へ入り、報告する。


「脱獄だと……? 手引きした者をすぐに見つけろ」

「畏まりました」


 騎士が部屋から去った後、陛下は少し考え事をした後、部屋にいた従者や護衛を部屋から下げた。


『サイン、すぐに来い』


 何処からともなく陛下の前に現れた男。


「お呼びでしょうか」

「ヴェーラ・ヴェネジクトが脱獄した。情報は入っているか?」

「もちろんです。手引きしたのは門番の男です。どうやら夕方の交代時間に一人の騎士に話し掛けられたそうです。雑談した後、牢の前に行くと、牢が空いていた、と」

「話し掛けてきた騎士に不審な所はなかったのか?」

「騎士の所属も判明しており、特に問題があるような騎士ではなかったようです」

「ふむ。騎士団はまだ襲撃事件から落ち着いていない。ワズルガードで犯人を探せ」


「ヴェーラ・ヴェネジクトの方はどうしますか?」

「もちろん探し出せ、生死は問わん。ああ、もし必要ならジョンソン・リツィードから道具を借りろ」

「畏まりました」


 ジョンソン・リツィードは数少ないワズルガードの存在を知る者。


 彼なら力を貸すだろう。


 ランドルフがワズルガードを使った事でいい気はしていないだろうが、彼らはあくまで暗部だ。私情を挟むことは一切ない。彼もその辺は理解しているはずだ。


 ブロルが裏切ったことで騎士たちに不和が出ている。

 そのために一部業務に支障が出ているとも聞いている。その上、脱獄か。次から次へと頭が痛いな。


 ランドルフも未だ目覚めていないと聞いている。

 王妃は気丈に振る舞っているが、レナードがいなければ心折れていただろう。レナードは自分こそが兄の代わりにと真面目に王太子の勉強に取り組んでいることが救いだ。


 再び部屋に入ってきた執事が何も言わずお茶を淹れる。

 湯気の立つ紅茶を口に含んだ。


「……渋いな」

「そうでございますね」


 そうしてまた羽根ペンを持ち執務に戻った。

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