第80話

「ユリア、テストは終わったね」

「はい! 師匠。今回はばっちり一位でした」


 学院の長期休みに入る前のテスト。今回は素直に実力を出してみた結果、全てのテストで一位を取ったの。これには担任の先生だけでなく、リーズたちも驚いていたわ。


 皆が驚く姿を見ながら意表を突くことができて少し気分よく長期休暇に入れたわ。実家にも連絡がいったようで『引き続き頑張りなさい』とだけ父から連絡が来ていた。


 部屋ではテストの結果を待ちわびていたかのように師匠が優雅にお茶を飲みながら待っていた。


「うんうん。さすがユリアだ。褒美は何が良いかな? ギレイル湖に咲く氷河の花とか」

「うーん。ラシュフォールの洞窟から採取されるラカン鉱石が欲しいです」

「ああ、あれね。んじゃ取りに行こうか」


 師匠はお茶を飲み終えると立ち上がった。


 まさか今からではないわよね?


 思わず、ランドルフ様を抱えながら一歩下がる。


「あれ? 行かないの?」

「物をくれるんじゃないんですか?」

「今、ラカン鉱石を持ってない。それなら今すぐ取りに行けばいい」

「え? あそこはAランクの魔獣がうっじゃうじゃいるって話じゃないですか!?」

「大丈夫、大丈夫。ドラゴンと対峙出来るのに今更だよ。さあ、ランドルフを籠に戻して」


 鉱石は欲しいが、あそこは気軽に鉱石を採取出来る場所じゃない。


 そうよね、師匠がそんな優しくないことは知っていたわ。私は諦めてランドルフ様を籠に戻した。


「じゃあ、行くよ」


 師匠の声と共に一瞬でラシュフォールの洞窟へとやってきた。


「師匠、どの辺に鉱石はあるんですか?」

「多分その辺を削れば出るんじゃないかな。確か前に来た時は小さな川が流れているところにあったんだよね。そこは開けた場所なんだけど、魔獣同士の争いの場なのか壁が削れた跡がいくつもあるんだ。その場所にいけば沢山落ちているんじゃないかな?」

「そうなんですね」


 洞窟の天井は所々割れ目があり、そこから光が差し込んでいたため明かりを付けなくてもいいようだ。


 ツルハシを持っていないから魔法で壁を削っていくのかと不安だったけれど、師匠の話を聞く限り鉱石は落ちているらしいので思っていたより簡単そうだ。


 私は師匠と一緒にずんずんと奥へ進んでいった。入り口付近は蜘蛛のような魔獣が壁伝いに攻撃してきたけれど、問題なく倒せたわ。


 Aランクの魔獣に遭わずに進めているのが不思議な感じ。


「ユリア、この辺かな」


 しばらく奥に進んでいくと開けた空間が出てきた。確かに壁は至る所が削られていて魔獣が争った形跡がいくつもある。足元には細く浅い川があり、その周りは河原のように大小様々な石がある。


 この大量の石の中から鉱石を見つける?

 無理じゃない?



「師匠、この中から鉱石を見つけるなんて無理すぎじゃないですか?」

「ああ、ユリアは知らなかったかな? ラカン鉱石は魔力を感知するとほんのりと光るんだよ」

「そうなんですね!」


 私はそのことを聞いた後、何も考えず河原に向けて魔法を打つと師匠が笑っている。師匠の笑いを不思議に思いながら河原を見ていると、確かに薄っすら光る石がいくつもあった。


「師匠! ありました!」


 私は嬉しそうに駆け寄って石を集めていると、どこからか魔獣が一体、また一体と角の生えた猿のような大きな魔獣が現れた。


「ゲッ!」


 思わず潰れた声が出た。


「言い忘れてたけど、魔力に反応して出てくるんだよここの魔獣」

「師匠! 分かってましたね? 早く言って欲しかった!!」

「まあ、修行の一つだ。拾いながら戦えばいい」


 師匠は涼しい顔をしている。四体の魔獣が奥の方から現れた。しかも結構素早い。私は魔法で攻撃しながら走り回った。


 一体、また一体と攻撃を避けながら反撃して残り一体……と思った矢先。


『ジョンソン師匠、緊急です』

『どうしたんだい? ジャンニーノ君』


 師匠の所に伝言魔法が飛んできた。


『ヴェーラ・ヴェネジクト嬢が脱獄しました。至急お戻り下さい』


 ヴェーラが脱獄?

 まさか、そんなことってあるの?


 師匠の機嫌を急降下させるには充分な連絡だった。


『ジャンニーノ君、とりあえずその場の対処は任せた。こちらも終わり次第向かうよ』『わかりました』


 師匠は先生との連絡を終えた後、残りの一体を一瞬にして風魔法で両断した。


「……ユリア、石は拾えた? 帰るよ」

「五個ほど拾っただけです」

「また取りにくればいい」


 私は大き目の石を抱え師匠の元に駆け寄った。倒した魔獣は置いていくようだ。転移魔法で部屋に戻ると、師匠は不機嫌なままジャンニーノ先生に連絡を取っている。



「ユリア、ちょっと様子を見てくるから君は拾った石を磨いて使えるようにしておくこと。いいね?」


 師匠はそう言って私の返事を待たずに王宮へと消えていった。


 私は魔法で少しずつ鉱石を削りながら考えていた。


 ……あの女が脱獄。


 ヴェーラは貴族牢で過ごしているものだと思っていた。犯罪の証拠やどこまでの人が関わっているかはまだ調査途中で捕まった人たちの刑は確定していない状況だ。


 これから刑が確定するという中でのヴェーラの脱獄。貴族牢とはいえ魔法は使えないようになっているはず。


 手引きしたのは一体誰だろう。

 王宮内部の犯行か、それとも外部犯か。


 とすれば、ヴェネジクト家かしら。でも、侯爵は捕まっているし。そのうち明らかになるよね、きっと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る