第79話 学院生活 ユリアとリーズ

「ランドルフ様、では学院にいってきますね!」


 私は朝のお世話をした後、部屋を出て寮に戻る。


「リーズ、おはよう!」

「ユリア様、おはようございます」


 一時はどうなることかと思ったけれど、こうしてまたリーズと共に学生生活を過ごすことができて嬉しい。


「ユリア様、最近王都で流行っている喫茶店に行ってみませんか?」

「喫茶店? もしかして『子猫のリティ』? クラスでも話題になっていたわね。タルトが美味しいって言ってたし、食べてみたいわ」

「私も期間限定の梨のタルトを食べてみたいです」


 こうして今流行りの食べ物や雑貨の話をするのが楽しくて仕方がないの。


「二人とも楽しそうだね。私も入れてほしいんだが」

「あら、ヨランド様。女性の話題に付いていけるのですか?」


 ヨランド様は同じクラスになってからはちょくちょく私たちに話し掛けてくるようになった。側近という話がなくなり、今は跡取りの勉強だけで済んでいるので余裕があるらしい。


「今流行りの喫茶店だろう? 母がこの間騒いでいたよ」


 そういいながらヨランド様は私たちの前の席に座った。


「猫型のクッキーもあるって聞きました。買って帰りたいわ」

「らしいな。今日、暇なら一緒に行かないか?」

「いいですね! ユリア様も行きましょう?」

「そうね、私もタルトを食べてみたいわ」


 こうして私たち三人で今流行りの喫茶店に行く事になった。授業が終わり、そのままの格好でヨランド様の馬車に乗り込んだ。


「やっぱり貴族の馬車は違いますね!」


 リーズは車内を見回した後、嬉しそうに外を眺めている。


「そうかな? 君のところも立派な馬車を持っているんじゃないか?」

「父が商談に向かう時は馬車を使いますが、私はあまり乗ったことはないです」

「でもリーズは爵位がないとはいえ、私たちと変わらない、いや、私よりももっと裕福な暮らしを望めば出来るじゃない」


 リーズの家は隣国との貿易品を中心としたもので下手な貴族よりも裕福だ。リーズの両親の考えなのかリーズ自身も奢ることなく質素な生活をしているのよね。


「裕福だとは思ったことないですよ。商会をしているのは父ですし、継ぐのも兄ですから。あっ! 見えてきました!」


 リーズはそう言いながら喫茶店を見つけて笑顔になっている。その様子を見ているヨランド様。なんだか優しい。彼はなんだかんだとリーズには優しいと思うのよね。


 もしかして、ね?

 ……お邪魔虫だったかしら?


 なんて思いつつ、私たちは馬車を降りて店の中に入っていった。


 店の中は裕福な夫人たちがちらほら見えている。可愛らしい猫足のテーブルと椅子が並べられて女の子に人気の理由がよく分かる。


 私たちは店員に案内されて一番陽当たりの良い席に座った。


 私たちは侍女のような格好をした店員に注文する。私は梨のタルトと紅茶のセット。リーズは悩んだ末、シフォンケーキと紅茶のセット。ヨランド様は紅茶と季節のゼリーというものを頼んだ。


「この間マリー嬢が婚約者と手をつないで歩いていたの。彼女、顔を真っ赤にしていたわ。見ているこっちまで恥ずかしくなっちゃった」


 リーズがいつものように話をする。


 最上級生にもなると結婚も間近になり、婚約者と共に過ごす人も多くなってくる。私たちは残念ながら誰も婚約者がいないのでこうしてキャアキャア言いながら会話に花を咲かせているのよね。


「リーズ嬢は婚約者は作らないのかな?」

「我が家は父と母は好きにしたらいいと言われているんです。私が家を継ぐわけではないですから。ヨランド様こそ婚約者がいないのは不味いんじゃないですか?」


 私とリーズの視線がヨランド様に向くと、彼は苦笑いをするしかなさそうだ。


「私は当分無理でしょう。殿下が療養してしまわれたのですから。側近としての力不足だったことは否めない。私の所に嫁にくる令嬢は肩身の狭い思いをさせてしまうでしょうね」

「ええー。勿体ないですね。こんなに素敵なのに。貴族って大変なんですね」


 リーズは何気なくそう溢しながら店員の持ってきたシフォンケーキを口に運んだ。


「ユリア様はどうなんですか?」

「んー。私は今まで通り、かな? 師匠の課題に付いていくのが大変だし、誰かと結婚なんて全然考えていないわ」

「ジョンソン殿の課題ってどんなものなのですか? 王宮魔法使い顧問は王宮を立て直すべく、檄を飛ばしながら厳しくもしっかりと人だと聞いたのですが」


 ヨランド様は興味深そうに聞いてきた。彼は文官志望なので卒業すれば王宮で会うかもしれない。


「師匠は、途轍もなく厳しいの。あれは絶対に可笑しい。悪魔なの。課題もね、転移の魔法円の構築に掛かる時間に使える魔法を考えてどういう状況で使えるのか考えろ、そのうえで無詠唱で魔法を使えるようにしろとか。最悪な場合、それを実践させられるわね」

「……実践?」

「突然ドラゴンの巣に落として火を防ぎながら魔法円で転移して帰ってこいとか。教え方が激しく間違っている気がするのよね。今の課題は魔力症の治療を永続的に使用できる魔法円の開発なの。とっても難しくて……」


 私が師匠の話をすると二人とも若干顔が引きつっている。そうよね。学院の勉強とはかけ離れているものね。私だって自覚はあるわ。


 そうして私たちは今流行っていることや今度のテストの話をしてお茶を楽しんだ。


「今日はとっても楽しかったです。ヨランド様、寮まで送っていただきありがとうございました」

「リーズ嬢、ユリア嬢、次にお茶する時にも呼んで下さい。ではまた明日」


 ヨランド様はさっと馬車に乗り込み家へと戻っていった。


 私はリーズとおしゃべりしながら寮へ戻り、自分の部屋の前で手を振って別れた。その後、部屋からいつもの小屋へと移動し、籠のベッドに寝ているランドルフ様のお世話を始めた。


 今日あったことを話しながらお土産に持って帰ってきたゼリーを小さくしてランドルフ様の口に運ぶ。リーズたちと楽しく遊ぶことが嬉しかった。


 今度のテストはどうしよう?


 もう実力を隠さなくて良くなったのでヨランド様といい勝負が出来そう!


 そう思いながら師匠からの課題を今日も寝る前までこなすユリアだった。

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