第77話

「こ、ここは……」


 魔法でマロンたちの居場所を探し歩いてきた私が辿り着いたのは、オズボーン伯爵家だった。


「なんで?」


 私は疑問に思いながらも我が家へと入っていく。久々の我が家。先触れなく家に来たけれど大丈夫かしら。少し心配になる私。


「ユリアお嬢様!? お帰りなさい」

「ただいま」


 止められるかと思ったけれど、どうやらすんなり家に入ることが出来た。玄関を開けると使用人が気づいて礼を執る。


「執務室にお父様はいるかしら?」

「はい。現在執務中だと思います。一度部屋に戻り、着替えをなさいますか?」

「このままお父様のところへ向かうわ」

「畏まりました」


 ――コンコンコン 


「入れ」


 短く答える父。扉を開けて執務室に入ると父は驚いた様子。


「ユリア。どうしたんだ? 突然」

「お父様、突然帰ってきて申し訳ありません。聞きたい事があって。用が終わったらすぐに戻りますわ」

「いや、家にいつ戻ってきても全く構わないが。用とは?」


 父は訝し気な顔をしながら聞いてきた。父の様子からして父は何も知らないのだろう。


「私の侍女であったエメの子供たちが貴族に攫われて帰ってきていないのです」

「貴族に攫われた?」

「目撃者がいて馬車から降りてきた男の子と話をしていたそうなんです。そしてエメの子供たちに探索魔法を掛けてこのように探し歩いていたら我が家に辿り着いたのです」


 私は魔法の掛かったマロンのノートを父に見せると、父は眉間に皺を寄せて口を開いた。


「貴族が連れ去った。それで我が家に、か。探しなさい」


 外聞が悪いとでも思ったのかもしれない。


「分かりました」


 私は執務室を出てノートの導く先に向かおうとすると、父も一緒に行くことにしたようだ。


 赤い糸は二階へと向かっている。

 そして廊下を進んでいくと部屋の前で止まった。


 ……ジョナスの部屋??


 私は不思議に思いながらも扉をノックする。


 すると、中から何かが聞こえてくる。

 返事はなかったけれど、扉を開けた。

「「ユリアお嬢様!」」


 真っ先に目に飛び込んで来たのはマロンとレナだった。


 二人で机を囲むように立っている。そして真ん中で座っていたのはジョナスだった。


「……これはどういうことかしら?」


 二人とも無事なようだ。それにしてもどういう状況なのかしら?


「お嬢様、「ジョナス、どういうことだ?」」


 マロンが何か言いかけた時、後ろにいた父が部屋に入り不機嫌に聞いた。まあ、そうだろう。誘拐事件の犯人が息子だとしたら怒るのも無理はない。


「ち、父上。こ、これには理由が」


 ジョナスは慌てて立ち上がり、バツが悪そうにしている。


「理由とはなんだ?」

「……ユリア姉様が優秀だから。この間アレンも言っていただろう? ユリア姉様が優秀なのではなく、侍女が優秀なだけだって。

 おれ、僕、自分が優秀だとずっと思っていたんだっ。

 でも、教師に教われば教わるほど自分が惨めになってくる。

 何も出来ていなかったんだ。ユリア姉様を馬鹿にするほどの知識もマナーもなっていない。

 だからっ、ユリア姉様の侍女を僕に付けたらいいんじゃないかって思ったんだ」

「だが、連れて帰ったのは侍女の子供だろう?」


 私の侍女だったエメは優秀な侍女には違いないけれど、連れてきているのはマロンとレナ。


 父も不思議に思ったのか聞いている。


「僕、気になって街に出た時に聞いたんだ。そしたら侍女の子供たちは侍女に劣らず優秀だって話をしていた。僕と歳が近い二人なら従者として働いてくれたらいいと思ったんだ」


 ……頭が痛いわ。

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