第76話ハイゼン家side
「ロード様、あんな依頼をしてよかったのでしょうか?」
「そうだな。だが、娘の無念を晴らしたい。アイツがあんな物を渡さなければアメリアが魔獣になって殺されることはなかったんだ。それなのに、アイツを、ヴェーラを毒杯だけで許すのか?
許せるわけがない。ジョーラム、メリーを呼んでくれ」
「畏まりました」
メリーはアメリアが亡くなってから体調を崩し、塞ぎこんでいる日が続いていた。
もし、あの家、いやヴェーラに報復出来るのなら安いくらいだ。
しばらくすると妻のメリーがジョーラムと共に執務室へとやってきた。
「ロード、いつもごめんなさいね。どうしたの? 急に呼び出したりして」
「ああ、メリー。大事な話だ。誰にも言わないように」
伯爵は執事のジョーラム以外を下がらせてからメリーをソファに座らせ、自身も隣に座って視線をあえて外しながら話を始めた。
「ヴェーラ・ヴェネジクトのことなんだが」
「あの女がどうしたのです?」
メリーの言葉が固くなる。
「このままいけば毒杯になるだろう。だが、それではアメリアが浮かばれない。私はそう思っている」
「うっ、うっ。アメリアは何も悪くなんてないわ。許せないわ、許すことなんて出来るわけないじゃない」
メリーは涙ながら夫に訴える。アメリアが死んでからというのもメリーの心は安定していない。
「もしも、だ。ヴェーラに罰を与えるチャンスがあるとしたらメリー、君はどうしたい」「もちろん、彼女に罰を与えたいと思うわ。私はもうどうなってもいい。平民になっても死刑になってもいいわ。だけど、アイツを痛めつけられるのならなんだってするわ」
「……そうか。わかった」
ロードはメリーをそっと抱きしめた。
「私も同じ気持ちだ。ある組織にヴェーラの脱獄を依頼した。アメリアの分まできっちりと復讐する。さあ、もう泣くのは止めて我々が出来る事を考えよう」
「……そうね。ロード、ありがとう」
きっと社会的には許されないことだろう。
けれど、アメリアを失ったことは私たちにとって生きていく事さえ苦しく、許したくない。
復讐したところで娘は戻ってこないことも分かっている。
だが、やりきれない思いが苦しくてどうしようもない。
葛藤だってある。
だがそれを鑑みても復讐でしか私たちの心は晴らせない。
メリーは覚悟したようで先ほどまでの消え入りそうな雰囲気とは一変して芯のあるといえばいいだろうか、復讐心が心を強く持たせたようだ。
メリーはゆっくりと立ち上がり、下がらせていた侍女を呼び、侍女と共に部屋へと戻っていった。
その後、すぐに私はレイン侯爵家へなんの手紙を書いた。もちろん他の者に手紙を渡すわけにはいかないのでジョーラムに直接渡すように指示をし、届けさせた。
そしてジョーラムが持ち帰ったレイン侯爵の印が押された手紙。執務室の机でペーパーナイフを使い手紙を開封する。
返事はというと、レイン家はこの件に関わらないとのことだった。レイン侯爵としては全て拒否ということでもないようだ。
【娘はようやく落ち着いてきたのでそっとしておいて欲しい。
ヴェーラが起こした事は許しがたいが、ヴェネジクト家とこれ以上関わらない方がレイン家とハイゼン家のためだ。
『テーラード』からの誘いは我が家にも来たが既に断っている。どうしても復讐がしたいのならハイゼン家だけですればいい。
領地の端にあるカロッサの村外れにある小さな小屋を貸すが、それ以上は手助けはしない】と書かれていた。
レイン侯爵としても思うところはあるのだろう。
あちらは娘が生きている。
……その違いだろう。
レイン侯爵の心遣いが今は有難い。
「ジョーラム、『テーラード』のシェイドに連絡を」
「畏まりました」
後は、彼らからの報告を待つばかりだ。
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