第73話エメの子供たちが行方不明に
『ユリアお嬢様!!!…… … …』
ある日、エメからの伝言魔法が突然入ってきた。とても混乱しているようで、あまり聞き取れない。
エメに何かがあったようだ。
『エメ、今から向かうわ』
私は学院が終わり、いつもの部屋で師匠の課題に取り組んでいる時だった。
「師匠、エメに何かあったみたいです。ちょっと宿まで行ってきますね」
「分かった。何か問題があればすぐに連絡するように」
パタンと本を閉じ、抱っこしていたランドルフ様をベッドに戻した後、そのままエメのいる宿へと急いで向かった。
転移をなぜしないのかって?
気づいているかもしれないけれど、私はまだ転移魔法を使ったことがないの。使えるとは思うんだけど、失敗するのが怖いのよね。先生も師匠もまだ早いって言うし、無理はしないわ。
私は宿に飛び込むように入っていった。宿の食堂では数人の冒険者がグレアムと話をしている。
エメは今にも取り乱してしまいそうな雰囲気だ。
「エメ! 大丈夫!?」
私が声を掛けると、一斉にこちらに視線が向かった。
「どうしたの?」
「マロンとレナが居なくなったんですっ」
「居なくなった? あの二人が同時に?」
「そ、それが……。いつものようにマロンとレナに買い物をお願いしていたのですが、誰かに呼ばれたらしくて荷物を置いてそのまま帰ってこないんです」
もう日も落ちる頃だし、子供の出歩く時間帯ではないわ。でもマロンもレナも私が認めるほど優秀でしっかりしている二人がこんな時間まで遊び歩いているなんて考えられない。
「エメ、とりあえず私が二人を探すわ。グレアムも宿泊者の人たちの食事はまだでしょう? 二人とも仕事に戻って」
「そういうわけにはいきませんっ」
「大丈夫よ。この間、師匠から探索魔法を教えてもらったの! 二人の事をちゃんと見つけるから」
私はマロンの部屋に入り、いつも使っているノートを持ってエメの元に戻った。
宿にいた冒険者たちは、どうやら治療院での治療が終わってこちらに宿泊する人たちのようだ。二人が居なくなったと聞いてそのうちの一人が目撃したらしい。
『貴族の馬車から出てきた男の子と何か話をしていた』ということだった。馬車に家紋は無く、誰か分からなかったと言っていた。
貴族に連れ去られてしまえばエメたちには追う術がない。
やはり私が探すしかないわ。
食堂のテーブルにマロンのノートを置いて詠唱を行う。するとノートに魔法円が浮かび上がり、ノートから赤い糸のような煙のような物がふわりと立ち上がった。それと同時に冒険者たちから感嘆の声が上がった。
「エメ、私はこれを追っていくわ」
「では俺が護衛としてついて行こう」
「グレアム、私一人で行ってくる。私なら強いし、貴族だったら私しか対応できないでしょう? ちゃんと連絡するし、危なそうならすぐに帰ってくるわ」
「……わ、かった。無理はしないで欲しい」
私はノートを持って赤い線を辿って歩き始めた。だんだん日も暮れはじめている。
急いだほうがいい。
私は早足で線の向かう先に進んだ。歩き始めて三十分ほど経った頃、一つの建物の前にやってきた。
「こ、ここは……」
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