第72話
「少しは楽になりましたか?」
「あっ、ありがとうございます。凄いですね。今まで感じたことがないくらい身体が楽になりました」
ゆっくりと起き上がって身体をさすり感覚を確かめている。ブレンスト公爵家から派遣された魔法使いに苛立ちを覚える。
「それは良かったです。でも無理は禁物ですよ? 症状を多少回復することはできましたが、魔力塊を完全に取り除けたとは言えないので。では私はこれで帰りますね」
私は立ち上がり、シェイラード様に軽く礼をして部屋を出た。先ほどと同じように夫人も部屋を出て一緒に歩き始めた時に夫人から感謝された。
「ユリア・オズボーン伯爵令嬢様、なんと言っていいのか……。本当に感謝しかありません。シェイラードがあんなに元気になって喜んでいるのはいつぶりかというくらいで……」
「いつも魔法使いの人が治療に来ていたと言っていましたが、どんな魔法を使っていたのですか?」
「いつも銀板の魔法円を使って治療をしていました」
「その銀板は置いてありますか?」
「ええ。少し待っていて下さい」
夫人はどこかの部屋へ小走りで向かったかと思うと銀板を持ってすぐに戻ってきた。
「これです。重いので気を付けて下さい」
渡された銀板は両手に乗るサイズでとても薄いが、そこそこ重い。
夫人は魔法円に何が書かれてあるのか分からないらしい。
私は何が彫られているのを確認する。
……
…
これは、全く読めないわ。
私が師匠から読まされているどの魔法円とも違う。
全くのインチキでそれっぽいものをしている可能性が高い。でも、万が一の可能性があったら困るし。すぐに師匠に伝言鳥を飛ばすと返事が来た。
『確認するから銀板を持って帰って』と。私は夫人に銀板はインチキかもしれないと告げて一応師匠に確認してもらうので一旦持ち帰ってもいいか確認し、銀板を師匠の元に送った。
『全くのインチキだ。こんな詐欺は許せないな。後で牢にいる詐欺師を〆ておくから』
速攻で返事が返ってきたかと思えば銀板も送り返されてきた。唖然としている夫人に言いにくいけれど、師匠の伝言を伝えて銀板を返した。
「銀なので価値もありますし、売った方がいいかもしれないですね」
「ええ、そう、ですね。ユリア様、わざわざすみません。あの、治療費はおいくらですか?」
「夫人、私が好き勝手にしていることですから。それに私はまだ学生です。治療費なんていただけませんわ。
もし、シェイラード様の体調が悪くなるようでしたらすぐに連絡下さい。あの状態なら二週間くらい保つと思います。
それまでにもう一度来ますね。彼女が治療しなくても良くなる方法をいくつか思い浮かんでいるので師匠に相談してみる予定です」
夫人はまた涙を拭っている。もう目が腫れて当分目が開けられないんじゃないかと思うくらいに。
自己満足なのかもしれないけれど、私に出来ることがあるのなら一生懸命やりたい。
最近はそう思うようになってきた。
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