第71話
ブロル元総長の娘、シェイラード嬢。
彼女がいるのはウエルタ家ではなく、夫人の実家であるヒルフォード子爵家らしい。
私は先触れを出した後、シェイラード嬢に会いに行った。
歩いて子爵家へと向かったの。
使用人たちや門番がいて活気があるのかと思っていたけれど、ヒルフォード子爵家は門番が一人立っているだけでひっそりとしていた。
今回の事件を機に夫人が家に戻ったことで非難されることを恐れたためだ。夫人が静かに私を出迎えてくれた。
「シェイラード様の体調はいかがですか?」
「娘の体調はあまり良くありません。なぜ貴女が娘を気に掛けてくれるのですか?」
「ブロル元総長にお会いしました。ブロル様がなぜ事件に加担してしまったのか話を聞くとシェイラード様の治療のためだったと。
魔力病の治療が適切に行われていれば普段の生活と変わらないようなのです。
それで彼女は今どういう状態なのか確認しにきたのです」
「……そうなのですね。娘はこちらです」
二階の廊下の一番奥にある部屋で、彼女はベッドに寝ていた。
「シェイラード、お客様よ」
「ごめんなさい、こんな格好で」
か細い声と共に起き上がった彼女。確かに今にも消えてしまいそうなほどの儚さを感じる。きっと父が捕まり、ウエルタ家から追放されるように子爵家へ戻って、生きる気力もないのかもしれない。
「はじめまして、私はユリア・オズボーンです。今日はシェイラード様にお会いしたくて来ました」
「ユリア様、初めまして。私、シェイラード・ウエルタです。魔力症のため最近はベッドにいることが多いですが、気に掛けてもらえて嬉しいです。でも私のことをどうやってお知りになったのですか?」
遠慮がちな笑みを浮かべ聞いてきたシェイラード様。案内してくれた夫人は涙をそっと拭っている。
「ブロル元総長から聞いたのです。今、シェイラード様がどのような状態にあるのか気になっている様子でした」
「……父が本当に申し訳ありません。私のせいで父が簒奪に加担していたなんて知らずに。本当にごめんなさい」
「私に謝らないで下さい。私はただ興味本位で貴女の体調を見に来ただけですから。辛いでしょう? どうぞ横になってください」
突然やってきた私に不審な目を向けることなく、ただひたすら謝る彼女。
私が平民なら私を怪しんで会いもしなかっただろうけれど、これでも一応伯爵令嬢。
爵位のおかげか追い返されることはなかった。
夫人が迎え入れてくれたのもオズボーン伯爵家を知っていたからだろう。
私は他の貴族からどう思われているのかは謎だけれど、昨年送られてきた釣書を考えると、まだ貴族の端くれくらいには存在しているのかもしれないわね。
「すみません」
彼女の顔色はやはり悪い。
起き上がっているのも辛いのだろう。
私は彼女を横にさせた後、ベッド横の椅子に座り、彼女の手を取った。
「魔力の流れを見てみますね」
治療院で患者を診る時のように魔力を流してみる。治療院でお手伝いをしている経験がここで生かされているのかと思うと感慨深いものがあるわ。
夫人は心配そうにじっと様子を見ている。
やはり魔力の流れがとても悪い。
彼女の場合、魔力が身体に合わないという症状ではなく、魔力を外に出す機能が他の人より弱いのかもしれない。
魔力が行き場を無くし、小さな塊となり、だんだんと塊は大きくなっていったのだろう。彼女の魔力回路を塞ぐようにかなりの大きさの塊がいくつもある。
師匠の言っていた通りだわ。
本当に最低限、生かされているだけの治療しかされていなかったんじゃないかしら。
私の魔力を使い、その場で魔力の大きな塊を崩した後、詠唱を始める。
今、私が出来ることは魔力を彼女から奪い取る方法しかない。余っている魔力を根こそぎ持っていけば魔力の塊が出来るまでしばらく保つはずだ。
「少し痛みが出るかもしれないですが、我慢してくださいね」
「はい」
私は少しずつ魔力を奪っていく。先ほど潰した大きな塊は取り除くことはできたけれど、小さな塊はまだ無数に存在していて一度では難しい。
けれど、魔力の塊が小さくなり、魔力を奪われたことで彼女の顔に紅が差し始めた。
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