第70話

「……わかりました」


 私は自白魔法をブロル元総長に掛けて質問してみる。


「ブロル総長の一番嫌いな人は誰?」

「自分自身です」

「何故?」

「不甲斐ない、弱い、心が狭く、一人の人も助けられない。騎士道に反することをしたから」

「私に忠誠を誓って欲しいわ。今すぐ、出来る?」


 意地悪を言ってどこまでの範囲で抵抗と見做されるのか試してみた。


 少し苦しそうな表情をするブロル元総長。


「……出来ません。私は陛下に、忠誠を、誓っていますから」

「そうでしょうね。どうしてランドルフ殿下のお茶会に魔獣を呼び寄せたのですか?」


 多少の考えにも作用していそうだ。


「私はブレンスト公爵の指示に従ったまでです。魔獣を呼び寄せるとは知らなかった」

「避難した後、ランドルフ殿下はどのように動いていましたか?」

「ランドルフ殿下は微笑む顔を貼り付けて令嬢達に声かけをした後、ユリア様が怪我をしていないか心配していました。部屋に戻られた後、倒れたと聞きました」

「何故倒れたのでしょうか?」

「無理をした反動だと王宮医師は言っていました」


 ……ランドルフ様の事は気になるけれど、これでは自白魔法の意味がないような気がする。


「何故、ブレンスト公爵に協力することにしたのですか?」

「莫大な借金をしていたからです」

「何故借金を?」


 やはり門番が言っていたように事件に加担した理由を言いたくないようで少しだけ表情が苦しそうだ。


「……娘のためです」

「確か貴方の娘の名はシェイラードだったわね? 病気なの?」

「魔力病です。もうすぐ、娘の命は尽きる」

「魔力病ですって!?」


 魔力病とはいくつか種類があるのだが、どれも不治の病と言われている病気で、何度も魔法使いに依頼し、特殊な魔法円を使用し魔力塊を取り除いたり、魔力を枯渇させたりするなど延命治療しか方法がないとされている。


 どの治療方法も高額な費用が必要になり、ブロル元総長が莫大な借金を抱えた理由にも納得する。


 娘のことをあまり話したくないようでブロル元総長は震えて苦しそうだ。


「シェイラードは死ぬのかしら? ああ、残念ね? 父に看取られずに死ぬのね?」

「……私だってシェイラードに死ぬまで傍に付いていてやりたかったんだ!!!! ブレンストめっ! 死、グッ……」


 興奮したところで師匠によって強制的に魔法が解かれた。


「ユリア、わざと煽っただろう? 苦痛を和らげるために興奮させて喋りやすくする方法もあるが、この場合は悪手しかない。精神誘導魔法も少し感じた。無意識だろうけどね。いくら練習とはいえ精神を壊すからこれ以上は無理だ」

「……師匠。ブロル元総長、すみません」


 ハアハアと肩で息をしながら少し微笑むブロル元総長。


「大丈夫ですよ。これくらい平気です。ユリア様は苦しい思いをさせないよう私を怒らせようとしただけなのはよくわかっていますから」

「ユリアには向いていない魔法だな。詠唱無しで様々な魔法を同時に使える分、たちが悪い」

「……師匠、ごめんなさい」

「ユリア、他にブロル君に聞きたいことはあるかな?」

「シェイラード様はいつから魔力病に?」

「娘が十五になった頃からでしょうか。身体の成長と共に魔力が増え、身体が魔力を支えきれなくなっていたのです」

「そうなんですね」

「ユリア様、落ち込まないで下さい。その優しさは時に敵に付け込まれる隙を与えますよ?」

「……そうですね」

「さあ、話は終わったかな? 戻るよ」

「はい、師匠。ブロル様、失礼します」




 私は軽く礼をした後、師匠と共に転移魔法で部屋に戻ってきた。


「ユリア、君の考えていることを当ててあげようか?」

「……」


 腕を組みながらジョーン師匠は不満顔だ。


「ブロル君のためにシェイラードを治したいと思っているんだろ?」

「……はい」


 師匠は大袈裟に溜息を吐いた。


「魔力症の治療は進んでいない。そもそも患者の数が少ないし、医師では魔道具を作ることが出来ない。魔法使いは医師ほど治療に特化していないし、数少ない特殊な魔道具を作っても儲けにならないからね。それに彼はブレンスト公爵に騙されていた」

「騙されていたのですか?」

「ああ。公爵家から魔法使いを紹介して治療をしていたが、相場の何倍もの値段の治療費を請求されていた。ブロル君には内緒だが、捕まえた魔法使いによると最低限の治療しかしていなかったと聞いた」

「では、まだ方法はあるんですか?」

「さあね? 君が頑張りたいというのならやってみればいい。ユリアが諜報には全く向いていないことは分かった」


 師匠は気のない素振りをしながら席に着いて、どこからかポットを取り出し、お茶を飲んでいる。


「わかりました! 私、シェイラード嬢に会ってきます!」

「ああ、行っておいで」


 私は思い立ったら吉日とばかりにシェイラード嬢のいる邸へと向かった。


 もちろんランドルフ様のお世話も忘れていないわ。

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