第69話
「ユリア、今日の課題はもう終わった?」
「はい師匠。ばっちりですよ!」
師匠から出された課題。魔法円の構築に関する課題で難問過ぎて遠い目をしたのは仕方がないわよね。
私の解答を見てフムフムと顎を触りながら納得している師匠。
あごひげないのにね。
「よく出来ている。合格だよ。よし、課題も終わったことだし、ブロル君に会いに行こうか」
「え? ブロル総長ですか?」
「ああ。元総長だ。今、彼は貴族牢にいる」
「私が行って何をするんですか??」
私は相変わらず師匠の考えに付いていけていない。子猫のランドルフ様を撫でながら師匠に聞いてみた。
「ユリアはブロル君に罪を擦り付けられそうになっただろう? 文句の一つでも言いたいんじゃないか?」
「いえ、特には。どちらかと言えば関わりたくない、です」
「まあ、そう言わずに。これからジャンニーノを超える魔法使いになるんだろう? 練習台として自白魔法の一つでも使ってみるといい」
「練習台として、ですか? ブロル元総長に?」
「ああ。ユリアも勉強を続けているし、たまには練習も必要だろう」
当たり前のように言っているジョーン師匠。練習台がブロル総長だなんて。
師匠は魔法の練習にブロル元総長を使うことを当然のように言っているけれど、恐れ多すぎない!?
自白魔法は自分の意図しないことでも素直に話してしまう魔法だが、話したくないと抵抗すればするほど苦痛を感じてしまうのだ。
脳に直接影響をさせるせいか強い抵抗を続けると精神崩壊を起こしてしまう。
そして否応なく師匠は私を連れて貴族牢前まで転移してきた。
……緊張する。
「ジョンソン様、お待ちしておりました」
「ブロル君はどんな感じだ?」
「普段と変わらない様子ですが、事件を起こした理由についてだけはあまり話したくないようです」
「……そうか」
師匠は貴族牢を守る騎士から報告を受けた後、私を連れてブロル元総長のいる牢に向かった。
「ブロル君、元気だったかい?」
「粗末な食事に飽き飽きしています。まあこれも自業自得ですから。私はこのまま毒杯を呷るでしょうか」
師匠の会話には笑顔で受け答えをする余裕さえみせている。
「さあどうだろうね?」
私は師匠にだけ聞こえる声で聞いてみた。
「師匠、事件について自白はしているんでしょう?」
師匠は気にした素振りもなく彼に聞こえる声で答えた。
「ああ、もちろんだ。だからユリアは聞きたいことを聞いてみるといい。彼が魔法の練習台になってくれる」
……気を遣って小声で言ったつもりだったけれど、師匠は全く気にしていないのね。
「ブロル元総長が、練習台なんて恐れ多いのですが」
私は動揺しながら師匠に話すと、ブロル元総長は微笑みながら答える。
「ユリア様、私は貴女に罪を擦り付けようとする罪人ですよ。自白魔法の練習に使ってもらってかまいません。私はもう長くないでしょうから」
微笑むブロル元総長。
彼は毒杯か絞首刑で自分の死が近いことを自覚している。
いくら練習とはいえ私は心が重くなる。
「……わかりました」
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