第64話
「えっと、ジョンソン様? 元王宮魔法使い筆頭が私の知り合いなんですか?」
思わず質問を質問で返してしまったその時。
「その答えは僕を見れば分かるだろう?」
「師匠!!?」
「……師匠?」
ニヤニヤと笑うジョーン師匠。
明らかに眉を顰めたジャンニーノ先生。
「どういうことですか? ジョンソン殿?」
「見ての通りだよ。僕はユリアの師匠になっていてね。ずっと魔法を教えているんだ」
いたずらがバレた時のような笑顔になっている師匠。
「ユリア様? 貴女に師匠が出来たと聞いていませんが?」
「えっと、これには、深いわけがあって……。突然拉致されてそのまま訓練に入って……」
「ふぅん? 拉致されたのに師匠、ですか?」
「えっと、でも、最初はなるつもりも無かったんだけどね。魔法のレベルが違いすぎて、ね……」
ジャンニーノ先生とのやり取りを師匠が諌めるように口を開いた。
「こらこら、二人とも。話はそれくらいにして。ジャンニーノ君がしっかりとユリアを教えていないからこんな事になったんだろう? 君にも責任があるんじゃないか? ユリアが育っていれば問題もこんな大事になることは無かっただろう?」
「……私の力不足ですか?」
「さぁね? さて、雑談はここまでだ。ユリア、怪我はないか?」
「もちろんありません。師匠、先ほど対処していたというのは王宮の暴動の話だったんですね」
「そうだよ。ブロル総長は知っているね? 彼が謀反人だった」
「……何故ですか?」
師匠から詳しく聞きたくて質問をする私。師匠は肩をすくめる。
「さぁ? ランドルフが王太子を降りる事になったというのが理由らしい。本当かどうかはこれから調べていくだろうけどね」
「ランドルフ殿下は王太子を降りるのですか?」
「うん。あの子は疲れ切っている。君を助けるために命を懸けたけど、君と同じように彼もまた心が壊れてしまっているんだ」
「……そ、んな」
彼もまた同じように……。
ヴェーラによって心を壊されていた?
時が戻ってからもずっと彼はヴェーラが側にいた。
私は彼を避けて、聞く事をしなかった。
「ジャンニーノ君が半年前からランドルフを治療していただろう? でも、効果は殆ど無かった」
「えぇ、残念ながら」
ジャンニーノ先生は少し不満気な顔をしながらも答える。
「時を戻る前の彼は魅了された後、隷属させられ、意識はありながらも抵抗できない状態のままヴェーラの言う通りにユリアを処刑した。彼なりに必死で止めようとあがいていたんだ。
だから僕は手を貸した。でも時間が戻っても過去の記憶は消えない。
どう乗り越えるか、最後の最後は自分達次第だ。ユリアは夢見の魔法で戻ってきた。だが、彼は、彼を本当の意味で支えてくれる者はいなかったから」
「……そう、なんですね」
「まぁ、暗い話はここまでだ。ジャンニーノ君はこの後の処理が待っているだろう? さぁ、ユリア。行こうか」
ジャンニーノ先生は黙って師匠の指示に従うようで頭を下げた。
師匠の言葉と同時に浮かび上がった扉。
師匠は私の手を引いて部屋に入る。
いつも学院後に来ていた部屋。
柔らかな光が射していてどこか懐古的な感覚がする。
「師匠、私はここで何をすれば良いのですか?」
「全ての事が解決するまでここに居ることになるね。その間、君はこれを勉強しておいてね」
まだまだ私には覚えることが沢山ありそうだ。
私がここに匿われているということは、私が狙われている可能性が高いのかもしれない。
確かブロル総長が謀反を起こしたと言っていたし。
私が過去の話をしたことが引き金となっているのかもしれない。
学院のことや王宮のことが気になるけれど、情報を得る手段は師匠やジャンニーノ先生に頼るほかない。
師匠はコポコポとお茶を淹れて優雅に飲んでいる。
「師匠、私はいつまでここに居ればいいんですか?」
「さぁ? 学院が再開するまで、かな?」
「いつ再開するんでしょうね。それに今王宮はどうなっているのですか?」
「詳しくはジャンニーノ君に聞くといいよ。まぁ、彼は当分忙しくなるだろうから君に話をいつするかは分からないけどね」
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