第63話
私が廊下に出ると、悲鳴が聞こえてきた。
Sクラスから悲鳴と共に逃げてくるSクラスの人達。
中にはリーズのように血を流している子もいる。
流れに逆らうようにSクラスに向かう私。
結界を張ってクラスに突入する。
……なんてこと。
クラスは椅子や机が倒され、血が飛び散り、凄惨な状況だ。倒れているのは五人。息があるのか、死んでいるのかも分からない状況。
一人中央に立っている血まみれの女がいた。
ヴェーラだ。
「…ははっ。アハハッ! …でしょう? 殿下! ランドルフ、殿下!」
何かをブツブツと呟いている。そして奇声をあげて笑い始める。
これがあの女??
何が起こったの? 気が狂っているようにも見える。
「ヴェーラ!! 動くな!」
私は自分を叱咤するように大声でヴェーラに拘束魔法を打つ。
「ギャッ!!」
拘束魔法で倒れたヴェーラ。
今の間に。
私は急いで倒れている人達に治癒魔法を掛けていく。
間に合って……。
「大丈夫、大丈夫だから」
必死に声を掛ける。瀕死の状態からはなんとか脱した三人。二人は残念ながら息絶えていた。
「早く逃げて!!」
三人は血を多く流した分動くのも辛そうだ。ヨロヨロと一人、また一人と部屋を出ようとしている。
私が一人を支えて逃そうとしている間に足元に魔法円が浮かび上がった。
「ユリア! 大丈夫か?」
「ジャンニーノ先生!! ヴェーラが! ヴェーラが……」
「辛かっただろう。後は私に任せるといい」
先生はそう言うと、拘束しているヴェーラに魔道具を取り付けた。
「ぎゃぁぁ!」
取り付けた魔道具に痛みを感じるのか声をあげている。
足掻くように体を動かしているヴェーラ。
目が血走り、呻き声をあげ興奮して魔力を放出しようとしている。が、魔道具が抑えているようだ。
……あの魔道具が無ければこの部屋は吹き飛んでいたかもしれない。
あそこまで興奮していると手加減してはいけないのだと感じる。
私は騒ぎを聞いて駆けつけた学院の教師に治療した人達を任せ、先生の下に向かう。
先生の後から王宮魔法使いが転移魔法で五人ほどやってきてジャンニーノ先生に城の様子を報告していた。
ここでヴェーラが暴れたと同時に王宮でも何かあったようだ。
もしかして師匠は王宮の方に行っているのかもしれない。
そうしている間にジャンニーノ先生は他の魔法使いと一緒にヴェーラを魔法で完全に抑え込んだ。
……魔力の封印。
二人で魔力を抜き取り、あとの三人で魔力の封印を行っている。
凄いわ。
師匠から教えてもらった本でしか見たことがなかった。
滅多に使う事のない魔法だと書いてあったの。
私の前の生でもされたことは無かったわ。
魔力を力づくで抜かれる痛みなのかヴェーラは叫び声をあげている。私はただ見ているだけしか出来なかった。
「ユリア様、終わりましたよ」
魔法使いのうち二人はヴェーラを抱えてどこかへ転移していく。
呆然と見送る私にジャンニーノ先生は微笑み清浄魔法を掛けた。
残りの三人は亡くなった人や怪我人の治療をするために動き始めた。
「ここは血で汚れている。とにかくここから移動しましょう」
先生は私の手を取り、転移した。
「……こ、こは?」
「ジョンソン・リィツィードの部屋です」
「ジョンソン・リィツィード?」
「彼は元王宮魔法使い筆頭。十年前、王宮から突然失踪したんだ。借金があったとも女と逃げたとも言われていた」
「そうなんですね。でもなぜそんな人の部屋が今でも残されているんですか?」
「そこが不思議なんだ。ここの部屋はランドルフ殿下の指示で残されている」
「そうなんですね」
「それに彼は謎が多い。今、王宮で謀反を起こした者がいて彼が対応中なんだ」
「元王宮魔法使い筆頭が?」
「どこからかフラリと現れてね。ユリアを連れてこの部屋にいるように指示があった」
??
ここに居るように指示された?
私と関係があるの?
今回の事件と王宮で起こった事件に関係があるから?
不思議に思いながらソファに座り、待っている。
「ユリア様が無事で良かった」
「私はあの程度では怪我しませんよ? 強いですから」
「無理は禁物ですよ」
先生はどこか怒った表情だ。
そんなに無茶はしていないはずだけど……?
「……それにしても、ユリア様。ジョンソン殿とどのような関係なのですか?」
ん??
やっぱりジャンニーノ先生は怒っているようだ。
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