第61話ジョンソン・リツィードside2

 ユリアが寮に戻ったその足で僕は王宮に向かった。


「やあ! 君が今の魔法使い筆頭だっけ?」

「君は?」

「僕? 君の探しているジョンソン・リィツィードだよ」


 そう話した瞬間、彼は魔法円を展開し僕を拘束しようとした。


「んーこの魔法円、僕が考えたんだよね。不具合が直されていないみたいだ。当時から君を買っていたのに残念だよ」

「どういうことだ?」

「殿下に聞いてみればいいじゃないか。僕が出奔した理由。何? まだ僕が賭博で借金抱えて逃げるように去ったなんて話を信じているの? 君もまだ子供だね」

「……」


 魔法円をその場でパキンと割って見せる。彼はとても驚いているが何か別の手はないかと同時に考えているようだ。


 あの当時の魔法使い達もこれくらい思慮深ければ、ね。

 当時も彼は将来の有望株だったな。しっかりと魔法を教える者がいない中、頑張っているほうだ。


 まだまだ未熟の一言に尽きるけどね。


「ああ、僕が来た理由なんだけど。僕が作った魔道具の模倣品で令嬢が魔獣に変わったんだろう? 腕輪を着けた令嬢も目覚めていないんじゃないかなって。ユリアから聞いてさ」

「……ユリア様が?」


 彼女の名前を出した途端、筆頭君は手を止めた。

 まぁ彼女の先生だったんだっけ?


 自ら考え、聞く耳を持つのはいいことだね。


「ああ、僕が犯人じゃないよ。依頼されて作った物を悪用した人がいる。ただそれだけさ。あと、王宮のお茶会で魔獣を呼んだのはゲルフという男だ。

 彼はブレンスト公爵お抱えの禁術魔法使い。それくらいはしっかりと調べておいてほしかったんだが。まあ、仕方がない。それが出来るのは僕くらいだろうからね」


 悔しそうにしている筆頭君。

 その若さで充分頑張っていると褒めておきたい。


「で、ジョンソン・リィツィード元王宮魔法使い筆頭様はどのようなご用件でここに?」

「さっきも言ったように腕輪の魔法が発動した時、ユリアが強制的に眠らせた。

彼女は未だ眠っているんだろう?様子を見に来たんだ。眠り姫はどこかな?」

「私が教えるとでも?」

「あぁ、教えなくても構わない。だが、ユリアが気にしていたから彼女のためにね」

「先ほどから貴方はユリア様のことをユリア、ユリアと呼び捨てにして。何なのですか」


 筆頭君は苛立っている様子。これは面白い。


「ああ、僕? ユリアとは仲がいいんだよねー。二人でよくデートしているんだ。宿だって一緒に泊まる仲だよ」


 クスクスと笑いながら答えてあげる。

 まぁ、嘘は言っていない。

 どう取るかは彼次第だが。


 怒りで僕に無数の氷の矢を投げてきた。


「攻撃したって無駄だよ。君の矢は弱い。本来、氷の矢はこうやって魔力を通すんだ」


 彼の放った矢を寸前で止めて僕の魔力を被せて彼に投げ返す。もちろんギリギリを狙うだけだ。


 その威力に自分と格の差が理解出来たようで彼は何も言い返さなくなった。


「君は優秀だよ? これからもっと伸びる。さあ、眠り姫の所に案内してくれ」

「私が案内するといつ言いました?」

「ああ、別に君に頼まなくてもランドルフに頼むからいいよ。彼の魔法を手伝ったのは僕だし、彼なら協力してくれるだろう」

「……こっちです」


 不機嫌な態度を取り繕うこともなく歩き始めた筆頭君。揶揄うのはこの辺にしておくか。


 僕は鼻歌を歌いながら彼の後をついていく。


 王宮の客室でも一番奥にある普段人が来ないような場所に眠り姫ことコリーン・レイン嬢がいた。


 僕は寝ている彼女の目を開けたり、魔力を通してどのような状況にいるのかを確認する。


「ジャンニーノ君、腕輪は持っているかい?」

「……ここに」


 僕は差し出された腕輪を確認する。


「ふむ。やっぱりな。おかしいと思っていたんだよね」

「おかしいとは?」

「この腕輪は元々使用者がイメージした獣になる腕輪だ。もちろん元にも戻る。だが、この腕輪のこの部分をよく見て? 魔力を通すと、浮き上がる文字の下にも何か書かれているだろう? 改ざんされているんだよ。だから長い詠唱が必要だった」

「何故長い詠唱が必要なんですか?」


「この腕輪を使って見せる時にそう教えられたんだろう。まあ、彼女は騙されたわけだ。解毒魔法が書いてあるとでも言ってね。

 改ざんされた腕輪を知らずに着けて詠唱をしようとした所をユリアに止められたんだろうね」

「アメリア嬢が魔獣に変化したのを目の当たりにしてもやるんでしょうか?」

「さぁね? 起こして本人に聞いてみればいいんじゃない?」


 途端に彼は難しい顔をする。


「仕方がない。そこの衛兵、死刑を待っている罪人一人連れてきてくれ」

「まさか……?」

「君が生涯眠りに就くならいいけど?」


 彼女は今のままなら生涯目覚める事はない。起きるには誰かに代わって貰うしか方法はないんだよね。


 しばらくすると衛兵に引きずられるように来た罪人。僕は彼の額に術式を施し、コリーン嬢に掛かっている魔法を彼に移した。


「さて、これで目覚めるだろう。僕の仕事はここまで。後は君が頑張ってくれ」


 彼は黙って僕の魔法を見ていたが、一言聞いてきた。


「貴方はどこまで知っているんですか?」

「んーどこまでだろうね? 推測は出来るけど全部じゃない。僕も国を離れていたからね」


 彼は何かを考えた後、口を開いた。


「……ご教授願えませんか?」

「僕、ユリアと遊ぶのに手一杯なんだよね。君はまずこの問題を解決してからだろう?」

「では、解決した後にお願いします」

「んー考えておくよ」


 僕はそう言って部屋を出た。これだけ答えを教えてあげたんだ。


 あとは彼が頑張ってくれるだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る