第60話ジョンソン・リツィードside

 面白い娘を見つけた。


 本当にたまたまだったんだ。その時は可愛い子に声を掛けてちょっと遊ぼうと思っていた。


 取りつく島もなくあっさり振られた僕。


 それだけなら全然気にしないんだけど、次に会った時、彼女は認識阻害を掛けていた。


 街で認識阻害を掛けながら歩いている人なんてそういない。


 面白そうだと僕の直感が告げていた。


 どんな人だろうかと魔眼で確認すると前に声を掛けたあの子だった。


 若いのに完璧に近い認識阻害魔法。

 僕が声を掛けると驚いてた。


 そして僕から逃げる事は出来ないと思ったのだろう。抵抗せずにいる。賢いね。


 彼女はどこまで魔法が使えるんだろう?


 僕はちょっとワクワクしながら力量を測ろうと思ってリザードマンの巣窟へ向かった。


 リザードマンは中級冒険者でも倒すのに時間が掛かる。彼女は文句を言いながらでも倒し始めた。剣で斬りつけながら詠唱無しに魔法を唱える姿を見て驚いた。


 こんな使い方をする人を見たことがなかったから。


 聞いたところ全て自己流のようだ。

 幼い頃に夢見でずっと戦闘していたのだとか。


 もしかして彼女が時を戻ったきっかけのユリア・オズボーンなのか?


 彼女の話しぶりで感じたのは何故夢見をしたのかという話題をそれとなく避けている。


 まあ、あの魔法は心に傷を負った者を夢のまま死に向かわせるものだし。


 よく生還出来たなと思う。

 支える者がいたんだろうな。


 因みに時戻りをした時の記憶があるのはランドルフと彼女ユリア・オズボーン。それと僕、ジョンソン・リィツィードの三人だけ。


 ランドルフの魔法が成功したのは僕が手伝ったから。


 その時に僕にも記憶が残るようにちょっと細工をしたんだ。


 ユリアはとっても真っ直ぐな子だ。

 ランドルフが命を懸けても彼女を救いたいと言ったのも頷ける。


 時間が戻る前、僕は外交という理由を付けて色々な国に遊びに出かけていた。


 僕がいない間にランドルフはヴェーラ・ヴェネジクトという娘の言葉巧みな罠によって魔道具を外され魅了と隷属魔法により支配されていた。


 婚約者であるユリアを虐げ、罪をでっち上げ公開処刑にしたらしい。


 例え魅了魔法で洗脳され、隷属状態にあったとはいえ、彼は抵抗し続けていたんだろうな。


 僕が王宮に戻るとランドルフは魂が抜け、人形のようになっていた。


 魅了や隷属魔法を見抜けない馬鹿な王宮魔法使いを一掃した後、殿下の魔法を解いた。


 だが既に彼の心は壊れていた。


 魔法を解いてからの彼はブツブツと何か独り言を喋り、叫び、発狂してのたうち回り、手が付けられなかった。


 それを誰も止めようとしなかったんだ。


 見ていて居た堪れなかったよ。


 彼からそうなった理由を聞けるのに半月は掛かった。


 もちろん彼から聞き出した後、王太子妃となっていたヴェーラを捕らえた。


 王太子の元婚約者殺害の主犯、王太子を魅了にかけたこと、その他の余罪も全て明らかになり、死より辛い永遠の地獄とされる永久結晶化の罰が与えられた。



 そして彼の心の治療が始まった。


 もちろん主治医は僕だ。


 治療の中で彼はこんなに不甲斐ない自分が許せない、戻せるものなら時を戻したいと何度も言うようになった。


 ランドルフは幼い頃から信頼し合い、ユリアと生涯支え合って生きていくのだと考えていた。


 だが、自分の命令でユリアの身も心もズタズタにしてしまった罪悪感と、愛している者が傷つく姿を目の当たりにしたショックで心を病んだらしい。


 彼にとってユリアは唯一無二の存在。それだけユリアのことを深く愛していたんだろう。


 だから僕が教えてあげたんだ。

 王族の秘術を使えば時間を戻せるよ、と。


 そして彼は僕の協力の下で一心不乱に難しい魔法円を完成させ、自死と引き換えに時間を巻き戻す事が出来た。





 僕は時間が巻き戻ってからすぐに王宮にいた使えない魔法使い達を徹底的に潰した。


 おかげで僕は王宮から追い出されたけどね!


 今の魔法使い筆頭はよく頑張っていると思うよ?

 僕の足元にも及ばないけどね。


 そして殿下が一番憂いていたヴェーラという子。


 幼い間に消してしまおうかとも思ったんだけど、罪のない子を消してしまうのは僕の流儀に反する。


 そしてランドルフ自身が解決するべき問題だとあえて手を出さずにいたんだ。


 まあ、そのせいでこっちにとばっちりがきたんだが。


 ……結局あの子は心が壊れたまま元には戻らなかったか。

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